前代未聞の場所がいよいよ始まった。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、史上初の無観客開催となった春場所。日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)が協会あいさつで相撲の持つ力を世間に訴え、土俵上では力士らが奮闘。協会員の中で1人でも感染者が出た場合は中止となる中、目立ったトラブルはなく初日が幕を閉じた。

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白鵬、鶴竜の横綱土俵入りが終わると、静まり返った土俵周りに八角理事長が現れた。東西の土俵下には全幕内力士が、向正面側には審判部の親方衆がNHKのテレビカメラがある正面に向かって立った。同理事長は土俵中央に立ち、カメラに向かって訴えた。

八角理事長 古来から力士の四股は邪悪なものを土の下に押し込む力があると言われてきた。横綱の土俵入りは五穀豊穣(ほうじょう)と世の中の平安を祈願するために行われてきた。大相撲の持つ力が、日本はもちろん、世界中の方々に勇気や感動を与え、世の中に平安を呼び戻すことができるよう、協会員一同一丸となり15日間全力で努力する所存でございます。

無観客の会場で、異例の形での熱弁。「相撲は勝ち負けという単なるスポーツではない。神事ごとで私たちの(存在)価値はそこにある。自分たちができることを淡々とやることに意味がある」と振り返った。

力士らは声援がない中でも、精いっぱいの取組を見せた。大栄翔を下した鶴竜は「忘れられない1日。全国で応援してくれている人を喜ばせたい」と話した。力水は口をつけずに行われたが、それ以外は通常通りで、土俵周りでの目立ったトラブルはなく初日が終了。結びの一番で遠藤を下した白鵬は「ああだ、こうだはない。1日が終わっただけ」と淡々と振り返った。感染者が出たら即座に中止。千秋楽を迎えるまで、緊張の日々は続く。【佐々木隆史】