鶴竜を入門時から育てた元関脇逆鉾の井筒親方は、鶴竜の指導者としての資質を認めていた。親方が亡くなる1年4カ月前、2018年夏場所中、国技館内の巡業部室で話を聞いた。

まだ鶴竜が日本国籍を取得する前のこと。引退後の見通しは立っていなかったが、井筒親方は鶴竜の将来を案じていた。

「先行きは自分で決めること。自分で決めていい。自分がそうしたいというならそうするし、本人も最近は考えているところがあるみたい。僕としては、鶴竜は技術的にも(いいものを)持っているし、性格も穏やかだから、指導者として適任ではないかと思っています。もちろん、本人がほかにやりたいことがあるならしょうがないけど」

この前年、鶴竜は6場所中5場所で休場していたが、年が明けて復活。18年春場所は8場所ぶり4度目の優勝を果たしており、井筒親方の気持ちも落ち着いていた。

井筒親方は膵臓(すいぞう)がんを患い、2019年9月16日に58歳で亡くなった。部屋は閉鎖となり、鶴竜らは陸奥部屋に転籍した。

師匠の告別式が終わった後、近親者だけが残った最後の席で、鶴竜は決意を口にした。「井筒は、僕が継ぎます」。横綱は引退後、現役名のまま5年間は日本相撲協会に残れる。今後の見通しははっきりしないが、この5年のうちに何らかの名跡を取得することになるだろう。

鶴竜の付け人経験者は皆、その人柄に魅了され、この人のために力を尽くそうとしてきた。きっといい親方になる。天国の師匠は、心配してない。【佐々木一郎】