感染症の第一人者である白鴎大の岡田晴恵教授は、実は好角家だった。大相撲の秋場所(11日初日、東京・両国国技館)に向け、新型コロナウイルス関連で休場が相次いだ先場所を踏まえて、対応策を提言している。検査回数を増やすとともに、結果に応じて部屋ごとではなく、1人1人が出場か休場かを決めるよう、柔軟な対応を促した。

背景には深い相撲愛がある。横綱照ノ富士らが所属する伊勢ケ浜部屋と交流があり、東京・両国国技館で行われる本場所中、同部屋に差し入れを欠かさない。定番は「とんかつまい泉」のサンドイッチだ。岡田氏は「エビかつサンド、メンチかつサンド、ヒレかつサンドをそれぞれ20人前ずつ60個。自分のために服なんかを買うよりも、若い子たちの血肉になったりしたほうがずっと良いですから」と続けてきた。

伊勢ケ浜部屋との交流が始まったのは19年ごろ。相撲界随一の稽古量を誇る伊勢ケ浜部屋にほれ込んだ。当時序二段から再起して十両まで戻った照ノ富士らと鶏鍋のちゃんこを食べたこともあった。そこで聞いた会話が頭に残った。

岡田氏 そのときは自分の方が番付が上にいる照強関が、照ノ富士関を『大関』と呼んでいました。食事を通して見えた人間関係の中には、相撲が大切にする礼儀や思いやり、そして大きな愛を感じました。この部屋は良い部屋だなと何かできることはないかと、かつサンドの差し入れが始まりました。先日の夏巡業に顔を出した時には若い力士の方から『かつサンド、ごちそうさまです』と感謝されて、うれしかったですね。後援者として、みんなのことを誇りに思います。

日頃から連絡を取るおかみさんから、かつサンドにまつわる秘話を聞きなおさらグッときた。

岡田氏 厳しい上下関係が残る相撲界では関取が口をつけないと、新弟子さんたちは遠慮して食べづらい。午前中に取組が終わる子たちは昼すぎにはおなかをすかしているのに手をつけない。それを見かねた師匠の伊勢ケ浜親方が、力士1人、1人の名前を書いて輪ゴムで束ね渡してあげるようにおかみさんに言ったそうです。これで遠慮なく好きな時に食べてもらえるようになったんですって。人情味と気配りが行き届いている部屋だなと感じて、親方やおかみさんの優しさが心に染みました。

好きな力士は数あれど、「博愛精神でやっていますから、1人に絞れません」。同部屋の関取衆をはじめ、他の部屋の力士や親方との交流も少なくない。「私は大きな人が好きなんですよね。もちろん小兵も好き。力士たちは日々、場所に向けてものすごく努力し、文字通り命がけで闘っている。尊敬しています。ハマりすぎて新幹線の車窓から熱海の街並みを眺めたとき、熱海富士関の顔が浮かんできたくらいですから(笑)」と相撲について語り出すと止まらない。

勤務先の白鴎大に相撲部を立ち上げようと奮闘し、秋場所(11日初日、東京・両国国技館)でも学校関係者に観戦してもらう機会をつくる。「生の相撲を見てもらって、相撲部創設への機運を高めたい」と奔走する。【平山連】

 

◆岡田晴恵(おかだ・はるえ)白鴎大教授。専門は感染免疫学、ウイルス学。国立感染症研究所、経団連21世紀政策研究所などを経て現職。感染症対策の専門家として放送、出版など幅広いメディアを通じて発信する傍ら、著作は専門書から絵本、小説など多岐にわたる。昨年12月に刊行された『秘闘-私の「コロナ戦争」全記録-』(新潮社)は19年末の新型コロナ発生以来700日間にわたる“戦い”を収録。

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