大相撲名古屋場所は新型コロナウイルス関連で途中休場者が相次いだ。その経験を秋場所(11日初日、東京・両国国技館)ではどう生かすか。感染症の専門家で「コロナの女王」とも呼ばれる白鴎大の岡田晴恵教授が5日までに日刊スポーツの取材に応じ、専門的な見地から対応策を提言した。

横綱照ノ富士らが所属する伊勢ケ浜部屋と交流を持ち、力士たちの場所にかける強い思いを実感しているからこそ「各力士の状況に応じた対応をする時期に来ている」と具体的な根拠を交えながら示した。

新型コロナウイルスの流行「第7波」について、岡田氏は「今はどこで誰が感染してもおかしくない」と、なお警戒心を強める。世界保健機関(WHO)は8月31日に、22~28日の1週間の新規感染者数が日本は125万8772人で、6週連続で世界最多になったと発表した。

依然としてコロナは猛威を振るう中で、スポーツ活動をどう続けていくか。PCRや抗原検査がより手軽に受けられるようになり、プロ野球やJリーグでは検査をし公式戦を行っている。

一方で大相撲はどうか。日本相撲協会が定める新型コロナのガイドラインでは、本場所開催時の対応(協会員の心得)として「罹患(りかん)した者の濃厚接触者は感染している可能性があるため、かかる本場所は休場とし、その間は外出を禁止する」と明記されている。先場所は全休を含めて休場は計13部屋、174人。およそ3割が土俵に上がれなかった。優勝争いが過熱する13日目には中入り後の取組18番のうち、7番が不戦となる異例の事態となった。

岡田氏は「協会のコロナ対策が不十分だと言っているわけではありません」と前置きした上で、今後はよりきめ細かな対応が求められると指摘した。

岡田氏 部屋に1人でも感染者が出た場合、濃厚接触者として全員を休場にさせざるを得なかった時期があるのは分かります。ただ、今はコロナが身近にある状況になっています。個々の状況に応じて対応していく時期にそろそろ差しかかってきたんじゃないでしょうか。

こう指摘する根拠は<1>ワクチン接種などの浸透や個々の感染歴によりコロナの免疫がついてきている<2>検査がより手軽に受けられるようになり、陽性・陰性が速やかに分かるようになっているの2点。それを踏まえて具体的な対応策が、他のスポーツ団体で行われているように検査の回数を増やすことだ。

岡田氏 「場所中に検査をきちんとして各力士の陽性・陰性を見極める。その結果に応じて、部屋ごとではなく、1人、1人が出場するか休場するかを決めるように改めるべき時に来てるのではないか。体調と、検査をして陰性だったら出場、陽性だったら休場など柔軟な対応を模索しないといけないですね」

岡田氏にとって、相撲は子どもの時から身近だった。「祖父母が相撲を好きで小さい頃からよく知っていたの」という。好きな映画に俳優の本木雅弘主演「シコふんじゃった。」を挙げる。順大の大学院時代には東京・靖国神社で行われた学生相撲の試合を見にいき「部員の方からマネジャーに誘われて、お弁当だけもらって退散したの」と照れくさそうに笑った。最近では「横綱照ノ富士関の復活劇には涙が止まりませんでした」と交流のある伊勢ケ浜部屋についてうれしそうに話した。

白鴎大教授に就任後は、相撲に対する情熱がさらに増した。「学生たちに国技の武道を教える機会を作りたい」と、相撲部創設を構想。日頃から本場所や巡業に訪れて知見を広げてきた。コロナ禍で休場力士が出ることについては、誰よりも悲しんでいる。「力士たちの現役期間には限りがある。コロナ関連で休場となれば、頑張ってきた実力が発揮できない悔しさが残りますよね」。感染症の専門家として、好角家としての提言だった。

【平山連】

◆岡田晴恵(おかだ・はるえ)白鴎大教授。専門は感染免疫学、ウイルス学。国立感染症研究所、経団連21世紀政策研究所などを経て現職。感染症対策の専門家として放送、出版など幅広いメディアを通じて発信する傍ら、著作は専門書から絵本、小説など多岐にわたる。昨年12月に刊行された「秘闘-私の「コロナ戦争」全記録-」(新潮社)は19年末に新型コロナ発生以来700日間にわたる戦いを収録して話題を呼んでいる。

◆名古屋場所のコロナ関連による休場 場所前に平幕の高安が所属する田子ノ浦部屋を含めると、計13部屋、174人に上った。およそ3割が土俵に上がれず、十両以上は戦後最多の23人と、前代未聞の事態となった。優勝争いが過熱する13日目には中入り後の取組18番のうち、7番が不戦になった。団体生活の相撲部屋だけに、感染者が1人でも判明すれば所属力士らが休場というルールが要因だった。