大相撲における関取への「敬称」について検証してみた。角界で十両以上の力士は「関取」と呼ばれる。一人前と見なされて給料が出るようになり、「琴ノ若関」や「玉鷲関」のように「○○関」と敬称をつけて呼ばれるようになる。序ノ口から幕下までは若い衆と言われ、「関」はつけずに「○○さん」と呼ばれる。ならば、関取に対して「関」の敬称を付けずに名前を呼ぶことは失礼になるのか?

まずは、日本相撲協会の芝田山広報部長(元横綱大乃国)に聞いた。

「一般の人が呼ぶには、○○関でも○○さんでもかまいませんよ。ただ、本場所の土俵で(現役時代に)女性から『大乃国さ~ん』と呼ばれた時は力が抜けたな(笑い)。だから、時と場合によりますよね。会場で声援を送る時は『貴景勝!』と呼び捨ての方がいいかもしれませんが、例えば食事の席で呼び捨てにされるのは違うでしょう。自分の名前ですから大乃国さんでもかまいませんよね」

ちなみに、横綱、大関はその地位を指すが、大関以上の力士に「横綱」や「大関」と呼ぶことは敬意を示すことにもなる。例えば照ノ富士に対しては、「横綱」と呼んでも「照ノ富士関」と呼んでも間違いではない。

5月の夏場所を最後に引退した元小結松鳳山の松谷裕也さんにも聞いた。

「関でもさんでも、一緒ですよ。『ん?』と思う時があるとすれば『おお、松鳳山、写真撮ってくれよ』みたいにリスペクトがない言い方をされる時ですかね。巡業などで『キャ~、松鳳山、松鳳山』とテンション上がって呼び捨てにされる時は、別に嫌な気持ちにはなりませんから」

引退した今は関取ではなく、「松谷さん」と呼ばれる立場になったが、かねてからの知り合いは今でも「関取」と呼んでくるという。本人は今、どう呼ばれたいのか? 「好きなように呼んでもらえばいいですよ(笑い)」と関取時代と同様、おおらかに答えてくれた。

一方、この事情をあまり知らずに、どの力士にも「関」の敬称をつけた方がよいと思っている人もいる。○○関と呼ばれた若い衆は、訂正するのも失礼かもしれないし、受け流すのも分不相応だし…、と対応に困ることがある。そんな時は、微妙な空気が流れてしまう。

いずれにしても、ファンの存在があってこその大相撲。関心を持ち始めた人に、「言葉遣いにこだわる小難しい世界だ」と思われるよりは、少々の間違いがあっても温かく受け入れたい。【佐々木一郎】