36協定を超える事務職員の時間外労働などで、向島労働基準監督署が日本相撲協会に是正勧告を出したことが27日、分かった。前日の26日、東京。両国国技館を訪れた同労基署の監督官から是正勧告書を受け取った。内閣府から公益法人の認定を受けた団体が5度の立ち入り調査の末、労基署から是正勧告を受けるのは極めて異例。関係者も危機感を募らせている。

日刊スポーツは26日までに相撲協会に書面質問を行い、同協会は「向島労働基準監督署から立ち入り検査を受けたのは事実」と認めた。複数の関係者によると、今年6月から10月までに計5度立ち入り調査を受け、長時間労働や時間外労働の賃金一部未払いなどが確認された。これについて具体的なことは明かさず、「調査及び指導については都度真摯(しんし)に対応し、是正対応を行っております」と回答した。

9月下旬には、事務局を統括する管理職の職員3人に対してコンプライアンス違反事案の処分を行った。このうち事務方トップの宮田哲次主事は時間外労働の不適切な管理や賃金の不払いを主導し、「職員4名に対し、脅迫的な言動を行う」といったパワーハラスメント行為を行ったとして1カ月停止の出勤停止処分を受けた(後に復職)。体質改善が図られるかと思われたが、ある協会関係者は「状況はほとんど変わってない」と気をもむ。

14年1月に内閣府から公益認定を受けた相撲協会は税制面で優遇措置を受けられるようになった一方、より透明性ある運営が求められている。そんな中で今回、労基署の5度の立ち入り調査の末に是正勧告を受けた。労働問題に詳しい山岡遥平弁護士(神奈川総合法律事務所)は「5回も立ち入り調査を受けるのはちょっと多い。公益法人を受けた団体が労基署から是正勧告を受けることはあまり聞いた事がない」と驚きを隠さない。

そして、「毎月のように調査を受けていたのなら、(協会が)どこまで真剣に受け止めていたのかが気になるところだ」と疑問を呈し、一連の問題については「労務管理すらできていない団体が、公益性を担えるのか。社会の一員であるという自覚が欠けていたことが招いたのではないか」との厳しい見解を示した。

向島労働基準監督から受けた勧告は以下の通り。

(1)未払の割増賃金が発生していたことについて

(対応状況)既に支払済みであり、監督署からも「是正済」の承認を頂いており

ます。

(2)職員親睦会費の賃金控除に関する労使協定がなかったことについて

(対応状況)既に労使協定を締結し提出済みであり、監督署からも「是正済」の承認を頂いております。

(3)年次有給休暇の取得が不足していたことについて

(対応状況)年内に職員のほぼ全員が、法定日数の有給休暇を取得予定です。

(4)地方場所における労働時間が適切な方法で把握されていなかったことについて

(対応状況)既にWEBでの勤怠管理を導入する等、対応済みです。令和6年1月末に再度の報告を求められています。

(5)36協定を超える時間外労働が発生していたことについて

(対応状況)労働環境の改善、36協定の見直し等、既に対応中です。今後3か月間の状況報告を求められています。

 

◆労基署の是正勧告 労働基準法などへの違反が認められる企業に対して改善を求める行政指導。企業への調査の結果、法律違反していた場合に出される。勧告を受けても対応を怠り、違反が続くなど改善が見られない企業に対しては、書類送検して刑事事件に発展する可能性もある。最近では宝塚歌劇団が2000年以降、割増賃金の不払いや労務管理の不備があったとして、労基署から計4回の是正勧告を受けていたことが発覚した。