14日目を終えて12勝2敗で単独トップも、前日に右足首を痛めて救急搬送されていた新入幕の東前頭17枚目・尊富士(24=伊勢ケ浜)が、痛みに耐えて110年ぶりとなる新入幕優勝を成し遂げた。1914年(大3)5月場所の両国(元関脇)以来。少しほほ笑むような、万感の表情を見せた。

優勝力士インタビューでは、実直に感謝と責任感と喜びを口にした。

-大変な偉業を成し遂げた幕内最高優勝、尊富士関です

ありがとうございます!

-この大歓声、どんな風に今、聞きましたか

本当に千秋楽、土俵に上がれて良かったなって。安心してます。

-昨日は驚き、心配しました。そこから1日、どのように。そして、どんな気持ちで土俵に上がったんでしょうか

そうっすね。体もきつくて、でも絶対に自分が最初のころに、15日間しっかり土俵に上がることを務めることが、やっぱ力士として大事だと思ったんで、もうホントに自分自身も優勝を勝ち取りたくて、はい、しっかり上がることができてホッとしてます。

-その強い決意を持っての今日の土俵上、勝てば優勝でした。これまでの14日間と気持ちの変化はありませんでしたか

やっぱりもう、このけがだったら、たいした相撲しか取れないんじゃないかと思ってる方もいますけど、やっぱり自分も、ここで負けたら皆さんが15日間、大阪場所に運んできた意味がないと思ったんで、その辺はしっかり自分で考えて。

-立ち合いからの出足で、ここまで素晴らしい相撲を続けてきた尊富士関。今日は組み止める相撲に見えました

そうですね。自分自身も信じて土俵に上がりましたし、何より師匠の(伊勢ケ浜)親方が(テレビ中継の)解説だったんで、しっかり土俵でいい相撲を見せなくちゃと思って、土俵に上がりました。

-褒めてらっしゃいましたよ

(表情を崩して)ありがとうございます。

-初めての幕内の15日間、初日からの11連勝、そして所要10場所での幕内最高優勝。あらためて、どう感じていますか

そうですね。最初に言った通り、やっぱ記録も大事ですけど、やっぱ皆さんの記憶に1つでも残りたくて、それで必死で頑張ってきました。

-記憶にも記録にも、両面に残る活躍です。初めての幕内の雰囲気はどう感じていましたか

まあ、やっぱり雰囲気もありましたけど、やっぱ何より部屋の稽古。やっぱり横綱(照ノ富士)がいますんで、そこはもう自分も怖がらずに、しっかり土俵に上がりました。

-先場所、横綱照ノ富士関が優勝したパレードの旗手に指名されました。「もう1度、自分でそういう景色が見たい」と話していた尊富士関。実現しましたよ、次の場所で

まさかやれると思ってなかったんですけど、ホント濃い15日間でした。

-故郷の青森でもたくさんの方が声援を送っていました。故郷への思いは今、どう感じていますか

そうですね。昨日、けがをして、やっぱその中でもたくさんの人から連絡がきた時に、やっぱり不安なのは自分じゃなくて皆さんの方だと思ったんで、そこで不安にさせないように、絶対に土俵に上がって、勝っても負けても、そういう自分を信じて土俵に上がりました。

-これまで支えてくれたご家族、関係者、そして何よりもお母様に、本当にいい報告になりますね

そうっすね。

-どんな感謝を伝えたいですか

そうですね。まあ、おかげさんで僕も、そんな体も大きくないですけど、やっぱこうやって、しっかり土俵で勝てるように育ててくれて、本当に感謝し切れないです。

-まだ新入幕10場所目。力士人生、始まったばかりだと思います。これからどんな相撲をファンに見せていきたいですか

見せて、それはもうファンが応えるような相撲を取りたいと思ってます。それだけです。

-これからの活躍を期待しています。本当におめでとうございました

ありがとうございました!

一問一答が終わると、律儀に四方へ頭を下げた。

まだ力士人生が始まったばかりで、両国の11場所を上回る所要10場所の史上最速Vも果たした。まだ大銀杏を結えない、ちょんまげ力士の優勝は、日本相撲協会によると初めてだった。

勝てば優勝だった前日の西前頭筆頭朝乃山戦で、右足首付近を負傷。自力で歩行できず車いすで運ばれ、救急車で大阪市内の病院へ搬送。出場が危ぶまれた千秋楽は、痛めた右の「足首や甲」をテーピングで巻いて固め、その足で踏ん張って、豪ノ山を押し倒した。

先場所は、その横綱照ノ富士の優勝パレードの車に同乗し、輝かしい景色を見た。自身が主人公で見る瞬間が早々と訪れ、殊勲賞、敢闘賞、技能賞もトリプル受賞。00年九州場所の琴光喜以来6度目という偉業まで達成した。

1世紀以上前、大正時代から110年も開かなかった扉を、わずか24時間前に負傷した尊富士が開いた。記録にも記憶にも残る歴史的Vを、奇跡的に劇的に実現し、感動を呼んだ。

◆尊富士弥輝也(たけるふじ・みきや)本名・石岡弥輝也。1999年(平11)4月9日、青森県五所川原市生まれ。鳥取城北高→日大。22年秋場所初土俵、24年初場所新十両で13勝2敗の優勝、今場所新入幕。184センチ、143キロ。得意は突き、押し。

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