「大器」と呼ばれ続けた東前頭15枚目の琴勝峰(25=佐渡ケ嶽)が、ついに初優勝をつかんだ。2敗の単独トップで、星1つ差に迫る東前頭筆頭の安青錦戦。名古屋で旋風を起こしてきたウクライナ出身の新鋭を突き落とし。13勝2敗とし、後続に2差をつけて堂々の優勝。「昭和の男」を思わせる、豪快なのに言動はもの静か。一方で父はボディービルダーで、幼少期から怪力など放っておけない要素も数知れない。一段と大相撲を活気づかせる存在になりそうな気配が漂う。
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実は前夜に、メガレモンサワーをジョッキ8杯も飲んでいた。初優勝が懸かる千秋楽を翌日に控えても、お構いなし。そんな豪快な琴勝峰は、立ち合いから安青錦をのみ込んでいた。190センチ、167キロの体格を生かした馬力で、立ち合いから押し込んだ。相手はレスリング仕込みの低い姿勢で、引いても落ちないことに定評。だが迫力のある立ち合いで慌てさせ、一瞬の隙をついて突き落とした。
「ビビらないように思い切ってやろうと思った。ゴチャゴチャ考えず、立ち合いだけ当たろうと考えていた」。細かな作戦は不要。思い切り当たる。押す。シンプルだった。最後はバランスを崩していたのを見逃さずに仕留めた。敗れていれば、草野を含めて3敗に3人が並ぶ可能性があったが「(決定戦でも)勝たなきゃいけないのは変わらない。精神的に優位だったとかはない」ときっぱり。後続と1差の単独トップで、本割で敗れても再度チャンスがあったが、一発で決めることだけを考えていた。
前夜は後援者に招かれ、部屋付きの荒磯親方(元関脇琴勇輝)、弟の前頭琴栄峰と、以前から豚しゃぶを食べに行く約束だった。ただ、優勝を争う状況だけにキャンセルも打診されたが「平気です」と即答。自ら進んで酒のペースを上げていた。この日も朝稽古後をこなした後は「よく寝られた。何時に寝たかは覚えていない」と淡々と話した。武勇伝とも思っていない。もともと口数も少なく、昭和からタイムスリップしたように豪快で寡黙な男だ。
幼少期から豪快な怪力エピソードにも事欠かない。現役ボディービルダーで、千葉・柏市で居酒屋を営む父の手計(てばかり)学さん(60)は「親戚の家で勢いよく足を伸ばして風呂に穴を開けた」「階段の手すりに引っかけたタオルを、引っ張るトレーニングをしていたら手すりが抜けた」と明かした。師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)は「大きくて体が柔らかい」と、小学2年時に初対面した時から潜在能力の高さにほれ込んでいた。「琴桜と2人を東西の横綱に」。それがずっと師匠の夢だ。
23年初場所は千秋楽相星決戦で、当時の大関貴景勝(現湊川親方)に敗れ、目前で賜杯を逃した。「その経験を生かした」と、豪快に飲んだのも精神的に落ち着かせるための、秘策だったのかもしれない。2年半前に逃した賜杯は「重かった」と、かみしめた。ずっと感情を表に出さず、淡々としていたが唯一、崩れたのが土俵下の優勝インタビュー後半。「上に、上に。とりあえず三役。その先も見捨てやっていきたい」。大器がついに、最初の優勝を手にした。【高田文太】
◆琴勝峰吉成(ことしょうほう・よしなり)
▽本名 手計富士紀(てばかり・としき)
▽生まれ 1999年(平11)8月26日生まれ、千葉県柏市出身
▽経歴 幼稚園のころから柏市相撲スポーツ少年団で相撲を始める。中3で全国都道府県選手権無差別級優勝。埼玉栄高では2、3年時に金沢大会団体戦連覇
▽入門 高3在学中に佐渡ケ嶽部屋に入門
▽プロ入り後 2017年九州場所初土俵。17年九州場所初土俵、19年九州場所新十両、20年7月場所新入幕。最高位は東前頭3枚目
▽優勝争い 23年初場所では千秋楽まで優勝争いに加わった。千秋楽は貴景勝に敗れて優勝次点(11勝4敗)
▽得意 突き押し、右四つ。
▽家族 夫人と一男。父学さんはボディービルダーで居酒屋経営。弟は幕内琴栄峰
▽愛称 テバ
▽サイズ 190センチ、167キロ
☆埼玉栄高で琴勝峰と同級生の王鵬 本人の頑張りでつかんだ優勝。自分は、人がどうだから、とかで頑張るというのはない。ただ自分も経験したいとは思う。
☆新入幕の今場所を6勝9敗で終えた琴栄峰 (兄琴勝峰の優勝について)本当にすごいと思う。自分も気合が入ったので、来場所からまた頑張りたい。

