2009年に急死したマイケル・ジャクソンさんによる過去の児童性的虐待疑惑を題材にしたドキュメンタリー「リービング・ネバーランド」が、今月初めにケーブル局HBOで放送されて大きな波紋を広げています。本作は、幼少期にマイケルさんの自宅兼遊戯施設だったネバーランドで性的虐待を受けたという2人の男性の証言を基にした内容で、2部構成で2夜連続放送されました。マイケルさんは過去にも児童への性的虐待の疑いで捜査を受けたことがあり、今番組で告発した2人の男性とは別の少年に対する性的虐待疑惑で2度にわたって訴訟も起こされているので、この番組の内容そのものは“いまさら”感がありますが、没後10年たって再びこの問題が蒸し返されたことや性的行為と引き換えに高価な宝石をプレゼントされたり、脅迫を受けたりしたこと、そして結婚して家庭を持った現在もその時に受けた心の傷は癒えていないことなどを赤裸々に語った内容が大きな衝撃を与えています。

マイケルさんの性的虐待疑惑を巡っては、全盛期だった1993年にファンの少年から訴えられたものの最終的には法廷外で和解に至り、刑事罰が科せられることはありませんでした。また、05年にもネバーランドで当時13歳だった少年に対して性的虐待を行ったことなど複数の容疑で裁判にかけられましたが、無罪判決が言い渡されています。それが今頃になって再び世間の注目を浴びることになったのは、番組での生々しい証言があったからにほかなりませんが、実はこの男性たちはマイケルさんの死後2度にわたって訴訟を起こすも17年に訴えが棄却されていたことから、マイケルさんの遺族は「売名行為と金銭目的による嘘の供述だ」と反論しています。

2人の証言がかなり具体的であったため世間に大きな衝撃を与えていますが、マイケルさんはすでに他界していることから反論の余地はなく、疑惑を証明する証拠が提示されているわけでもないため賛否両論の番組内容ですが、放送された直後からカナダやイギリスのラジオ局がマイケルさんの楽曲を放送禁止にするなど国内外でさまざまなボイコット運動が起きています。米国でも多くの著名人が声優として出演している人気アニメ「シンプソンズ」シリーズでマイケルさんが声の出演をしたエピソードを削除することが発表され、今後は1991年に放送されたマイケルさんの出演回は再放送やストリーミング放送を行わないほか、DVDからも削除される方針だといいます。

そんな中、新たに没後10年を迎えたマイケルさんにインスピレーションを受けた2019-20年秋冬メンズコレクションを披露した大手ブランド、ルイ・ヴィトンも釈明に追われ、「誰もが知る大スターのマイケル・ジャクソンの公的な部分にのみ着想を得たもので、そういう部分は多くの歌手やデザイナーに影響を与えている」と声明を発表する事態に。一方で、「我々はいかなる形でも児童虐待や暴力、人権に反する行為は容認しない」とも述べ、スパンコール付きのトップスやマイケルさんのイラストが描かれたTシャツなど直接的にマイケルさんを思わせる商品は生産しない意向を示しています。また、マイケルさんの生まれ故郷米インディアナポリス州にあるインディアナポリス子供博物館でもマイケルさんに関する展示2点が撤去されたことが明らかになっています。

世界中でマイケルさんの音楽を排除する動きが広がる中、マイケルさんの長女でモデルのパリス・ジャクソンが、このドキュメンタリーが原因で自殺を図ったのではないかとの報道も。放送後も沈黙を貫いてきたパリスでしたが、「みんな、私の人生を私よりも真面目に受け取っているのね。落ち着きなよ」とツイートしたものの、その後は「父親を擁護するのは私の役目ではない」などとも発言。そして自殺未遂が報じられた後は、「嘘ばかり」とツイッターで否定しましたが、精神面の不安が心配されています。

性的虐待疑惑が再浮上したことで再び批判の嵐にさらされているマイケルさんですが、一方で歌手マイケル・ジャクソンのレガシーは永遠だと支持する人たちもいます。ロックンロールの殿堂は「マイケルの音楽のすばらしさと才能は今なお続くロックンロールに影響を与えており、それは永遠」とコメントし、ジャクソン5とソロでの殿堂は今後も残り続けると伝えられています。また、著名人の実物大のろう人形を展示するマダム・タッソーろう人形館も世界各国で展示しているマイケルさんのろう人形は多くの人に親しまれていることから現時点で撤去する予定はないとしています。

近年ハリウッドを中心に広まっているセクハラや性的暴行の撲滅運動が少なからず影響を及ぼしていると思われますが、今後は遺族が証言した男性に対して訴訟を起こす可能性なども指摘されており、この問題はまだ尾を引きそうです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)