新型コロナウイルス感染拡大の影響で灯が消えていたハリウッドが、「ゴジラvsコング」の大ヒットで復活に沸いています。

3月31日に全米公開されたゴジラとキングコングを主人公とする「モンスターバース」シリーズ4作目となる待望の最新作「ゴジラvsコング」は、4日までの公開5日間で予想を上回る4850万ドルの興行収入を記録し、コロナ禍が始まって以降最高の数字をたたき出す大ヒットとなりました。当初の5月公開予定を前倒しにし、ニューヨークとロサンゼルス(LA)の映画館が1年ぶりに営業を再開したばかりのタイミングで公開できたこと、さらに春休みとイースターウィークエンドというホリデーシーズンも重なった絶好のタイミングだっただけに、大勢の映画ファンが再び劇場に足を運ぶきっかけとなり、危機的状況に直面していた劇場主に明るい希望を与えています。

アメリカでは新型コロナの感染拡大が始まった昨年3月中旬に映画館が閉鎖され、多くの新作映画がストリーミング配信に切り替わる中、本作も劇場公開と同時に定額制動画配信サービスHBO Maxで追加料金なしで視聴が可能となったため、今回の興行収入は期待以上の好調な滑り出しといえ、映画館の存在意義を証明するものとなりました。

コロナ禍以降に公開された作品でこれまで最高のヒットとなっていたのは、一部の州で映画館の営業が再開したのを機に昨年9月3日に劇場限定で公開されたクリストファー・ノーラン監督の「TENET テネット」で、公開3日間で2020万ドルを記録していました。ノーラン監督の作品としてはもちろん低い興行ですが、この時点ではまだLAなど大都市の映画館は閉鎖されており、営業している劇場も入場できる観客数を4分の1から半分程度に限定している状況下においては大健闘で、「映画館に客が戻ってきた」と当時はメディアでも大きな話題になりました。同作は2020年の年間興行ランキングでもパンデミック以降の作品としては最高となる14位にランクインしており、「ゴジラvsコング」はそんなコロナ禍以降で最もヒットした「TENET テネット」を超えるヒットとなっています。今週からLAの映画館は規制緩和で25%だった入場者数を50%に引き上げることが可能になったことから、さらなる興行拡大が期待できそうです。

しかし、少し前まで多くの人がコロナによって「映画館で映画を見る時代は終わった」と感じていたことは否めません。ネットフリックスやアマゾンの躍進が注目されていた中、突如起きたコロナによって長期間にわたって映画館が閉鎖されて世界は一変。ようやく営業を再開しても感染予防のために入場者数は25~50%に減らされ、鑑賞中もマスク着用の義務化など1年前とは違う世界になっており、映画館に客足が戻るのは難しいと考える人も少なくありませんでした。実際、ユニバーサル映画は昨年4月に公開予定だった「トロールズ ミュージック★パワー」を劇場公開と同時にストリーミング配信する方針を打ち出して大成功を収め、ディズニーもコロナ禍で好調な配信サービスに舵取りをする方針を打ち出して次々と劇場公開予定だった作品の配信をスタート。ワーナー・ブラザースも今年いっぱい劇場公開される作品をHBO Maxでも同時配信することを発表するなど、この1年でハリウッドの状況は大きく変わりました。そんな流れの中で「ゴジラvsコング」がヒットしたことは、ストリーミングの台頭で自宅にいながらにして新作映画が楽しめるようになっても、大スクリーンで大音量で迫力ある映像を楽しむ醍醐味は映画館でしか味わえないことを多くの映画ファンが示したことに他なりません。

とはいえ、ストリーミング配信の流れも簡単には止められそうにはありません。ディズニーは、当初5月7日に公開が予定されていた「ブラック・ウィドウ」を2カ月延期すると発表しただけでなく、劇場公開と同時にストリーミング配信する方針を決め、営業再開後の目玉作品として期待していた劇場主を失望させました。ディズニーは5月28日公開の「クルエラ」や6月公開のピクサーの最新作「あの夏のルカ」もストリーミングで同時配信する予定で、ワーナーの「モータル・コンバット」や「ザ・スーサイド・スクワッド”極”悪党、集結」などもHBO Maxで見ることが可能となります。また、パラマウント・ピクチャーズは劇場公開予定だったトム・クランシーのベストセラー小説「容赦なく」をマイケル・B・ジョーダン主演で映画化した「ウィズアウト・リモース」やクリス・プラット主演のSF「トゥモロー・ウォー」をアマゾンに売却しており、今後ストリーミング配信される予定で、依然として映画館は困難な状況が続くことが予想されています。