テニス界のスターで、次世代のリーダーとしても世界中から注目される大坂なおみ選手の軌跡を追うNetflixドキュメンタリーシリーズ「大坂なおみ」が、16日からNetflixで全世界同時独占配信がスタートしました。

Netflixドキュメンタリーシリーズ「大坂なおみ」はNetflixにて独占配信中
Netflixドキュメンタリーシリーズ「大坂なおみ」はNetflixにて独占配信中

2018年に全米オープンで初優勝を果たした大坂が、追いかける立場から追われる立場へと変わる中でスランプに陥り、試合を重ねる中で自分自身の声に気づき始めて再び頂点を手にした2年間に密着した全3話からなるドキュメンタリーです。メガホンを取ったのは、60年の懲役刑を科せられた夫の釈放のために戦う、6人の子供を持つ母親を描いた「タイム」で(2020年)で第93回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたギャレット・ブラッドリー監督。幼少期の秘蔵映像やプライベートでの素顔なども織り交ぜながら等身大の大坂なおみが描かれています。

今年5月に精神的な問題から全仏オープンを途中棄権することをSNSで発表すると、世界中でアスリートのメンタルヘルス問題がクローズアップされるなど、今や一挙手一投足に注目が集まる大坂。そんな彼女が、「私は何者にもなれないと多くの人に言われてきた」とハイチ人の父と日本人の母の間に生まれた苦悩を語り、「私が強くなるために払ってきた犠牲は誰も知らない」「非現実的なほどの注目を浴びている」とスターとなって感じた胸の内も吐露。また、幼いころに一家でアメリカ移住した大坂の母は、子供たちを育てるために働き詰めで車の中で眠ることもあったと明かし、「母親を幸せにしたい。テニスをする理由はそれだけだった」と語る場面もあります。

第1話では主にホームビデオの映像を使って振り返る幼少期の思い出と、全米オープン初優勝でグランドスラムの栄冠を手にしたサクセスストーリーが描かれています。第2話では頂点に立った大坂がプレッシャーに押しつぶされてスランプに陥る姿のほか、昨年1月に尊敬する元NBAスターのコービー・ブライアントさんがヘリコプター墜落事故で帰らぬ人となり、予期せぬ死に直面して打ちひしがれ、悲しみにくれながらトレーニングに励む様子が描かれています。

Netflixドキュメンタリーシリーズ「大坂なおみ」はNetflixにて独占配信中
Netflixドキュメンタリーシリーズ「大坂なおみ」はNetflixにて独占配信中

そして第3話は昨夏にアメリカを席巻した人種差別への抗議運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切)」を胸にコートで戦う姿に焦点を当てており、シャイな大坂が全米オープンでは人種差別への抗議を表明するため、決勝までの7試合でそれぞれ犠牲になった7人の黒人の被害者の名前が書かれたマスクを着用しながら勝ち進み、2度目の優勝を手にして見事復活する姿を描いています。

メンタルヘルスの問題がクローズアップされる中で全3話を通じて改めて大坂の繊細さが浮き彫りになっていますが、シャイな一面と、コートでのたくましさのギャップが大坂の魅力の一つでもあることが実感できます。一方で日本人としてのアイデンティティについて自ら語るシーンは少なく、日本との関係性を描く部分が希薄なことは日本人としては残念でしたが、そこはこれまで主に黒人の人種問題などをテーマにした映画を撮ってきたブラッドリー監督にとって、あまりフォーカスすべき点ではなかったのかもしれません。

20歳で日本人初のグランドスラムの栄光を手にして頂点に上り詰めたことで、改めて「自分は何者で何を求めているのか」考えさせられる大坂。一方でコートから離れると家族や友人と無邪気に過ごす姿があり、新しいことにも挑戦し、人種の異なる両親を持つミックスとして育った自らのルーツや多文化のバックグラウンドと向き合う姿は、ファンのみならず多くの人の共感を呼ぶことでしょう。

スター選手としての一面だけではなく、23歳の1人の女性の素顔も垣間見ることができるドキュメンタリーは、「社会正義」や「メンタルヘルス問題」で常に壁を打ち破ってきた大坂の強さや内に秘めた情熱にも触れることができ、オリンピックを前に改めて「大坂なおみ」というアスリートを知る良い機会になるかもしれません。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)