3年前の「湯を沸かすほどの熱い愛」は、銭湯の釜を使った「火葬」が文字通り熱く心を揺さぶった。

同じ銭湯を殺人の現場に見立てれば、清掃、焼却の後始末にこれほど適した場所はない。そんな発想から始まったかは定かでないが、30代の新人トリオが製作、監督、アクションの得意分野を生かして手を組んだ今作は手放しで面白い。

東大出のフリーター和彦(皆川暢二=製作兼)は、バイト先の銭湯が閉店後に「人を殺す場所」として使われていることを知る。バイト仲間の松本(磯崎義知=アクション兼)の裏の顔は腕利きの殺し屋だった。

学歴は立派だが、うだつの上がらない男が「特別な存在」を目指して裏社会に足を踏み入れるいきさつを、これがデビュー作の田中征爾監督はゾクッとするような描写で伝える。素人の和彦に松本が手ほどきするシーンで殺し屋稼業の「プロの手際」を実感させる。

和彦の両親や恋人は「普通の人」だが、裏稼業の一端が垣間見えても動じない。この妙な鈍感さが面白い。アクションのヤマ場、そうくるかと感心させられる幕切れ。新人トリオの脚本は練り込まれ、見せ場をしっかり心得ている。

【相原斎】(このコラムの更新は毎週日曜日です)