1965年(昭40)に、3人の男娼(だんしょう)に性別適合手術を行った医師が、優生保護法(現母体保護法)第28条違反と麻薬取締法違反で逮捕、起訴され、69年に有罪判決を受けた実際の事件を劇映画化した。トランスジェンダー男性の飯塚花笑監督が、事件に衝撃を受けて映画化を企画。裁判資料、当時の新聞、週刊誌の報道を読み、当事者として生きた人々を取材して脚本を作り上げた。トランスジェンダー役に当事者をキャスティングすると掲げてオーディションを開催し、40人が参加した。
東京五輪景気に沸く65年の東京で、警察は街の浄化を目指し、性別適合手術を受け戸籍は男性のまま女性的に体の特徴を変えた「ブルーボーイ」が売春しても、売春防止法の摘発対象にならないことに苦心。優生保護法に目をつけ、生殖を不能にする手術をした医師を逮捕した。手術が医療行為だと証明したい弁護士から、証人として裁判への出廷を依頼された元患者サチは、女性として生き、恋人からプロポーズを受けた今の生活を壊したくないと拒むも、先に証言した友人の死を受けて証言台に立つ。
演技初挑戦ながらサチ役を射止めた中川未悠は、飯塚監督が「セリフの上に当事者の思いが乗ったセンスに驚いた」と漏らすほどの演技を随所に披露する。中でも裁判長から「幸せですか?」と聞かれたサチが「私は今、幸せです。でも、きっと皆さんが思うような幸せではありません」と答えるシーンは出色だ。その中川が強調した「幸せとは何かを問いかけてくれるような温かい映画」という言葉こそ作品の本質だろう。何かを心に残す1本だ。【村上幸将】
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