俳優阿部寛(55)が、フジテレビ系連続ドラマ「まだ結婚できない男」(火曜午後9時)に主演している。13年ぶりの人気シリーズ復活。前作では家庭をもつことに興味がない偏屈な建築家を演じヒットさせたが、自身はその後、結婚してシワが増え、白髪も出始めたという。モデルから始まり、亡き高倉健さんやつかこうへい氏との出会い、低迷、ブレーク…30年を超える役者人生について聞いた。

★実生活では08年結婚2人娘の父

長身でイケメン。そして、目尻に刻まれたシワ。40代前半から50代半ばへの、13年間の時の流れを感じさせる。

「13年ですよね。こんなに(シリーズの間が)長かったのはなかったですから…。正直、果たして今やるのはどうなのかなと思いました。前作は多くの方に見ていただいたので、それをまたやるっていうのは、勇気も必要でした。また喜んでもらえる作品を、今の時代に作れるかなっていう」

06年放送の前作「結婚できない男」では、「結婚などする必要ない」という信条で皮肉屋だが、どこか憎めない独身建築家・桑野信介をコミカルに演じ、平均視聴率16・9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録するほど話題を呼んだ。1人焼き肉、1人カラオケなどの“おひとり様ブーム”も巻き起こした。阿部は当時42歳になったばかり。実生活でも独身だった。「リアル結婚できない男」のうわさが立ち始めた08年、一般女性と結婚。2人の娘の父親になった。

「作品を作るに当たっては、特に違いはない。前作の桑野を思い出しながら、彼が13年たって、どういう性格でいるかということだけを考えればいい。脚本の尾崎(将也)さんの世界観をやればいい。どういう風にすれば世の中の人に喜んでもらえるかだけを考えている。それこそ、13年前に戻ったような感覚。コメディーにプラスしてセリフ劇の掛け合いみたいなものを楽しんでもらえれば」

06年は、5年5カ月続いた小泉純一郎首相が退陣、第1次安倍晋三首相政権が誕生した。また、AKB48が「会いたかった」でメジャーデビューした。

「僕自身、見た目の風格というか…年をとりました。いくら鍛えても、体重計に乗れば実年齢の55歳が出てくる。運動能力も落ちてきた。でも、そこは、それでいいやと思ってます。それが自然だし、それが芝居になってでてくれば一番いい。そこらへんに逆らいはしない。それで年を取っていきたい。最近、白髪も出てきたけど、やっと出てきてくれたかなと思っています(笑い)」

結婚に背を向け、真夜中にクラシックを大音響でかけて陶酔して指揮を執り、1人しゃぶしゃぶに舌鼓を打つ偏屈な男、桑野信介。

「この台本を読んですごく面白いし、共感できることがたくさんある。だから、彼と同じようなところがあるんじゃないですかね(笑い)。でも多分、彼は結婚しませんね。とにかく、彼が幸せであればいい。そうであれば皆さん、喜んでくれるんじゃないかな」

信介が自分の悪口を書くブログについて相談する独身の女性弁護士、吉山まどかを演じる吉田羊(年齢非公表)とは初共演。

「羊さんは、いろいろな役をやられている。もちろん、コミカルなものもやられているから、桑野と一緒にやってどういうものができるかが非常に楽しみ。実際、面白くできています」

離婚裁判を抱えるカフェ店長役の稲森いずみ(47)とはフジテレビ系連続ドラマ「ハッピー・マニア」以来、21年ぶりの共演だ。

「21年ぶりか! それもすごいですね。稲森さんは独特の感性があるんで、黙っていても面白い(笑い)。そういう微妙なものをやっていきます。いろいろな役を経験されているから、最初は悩まれてたみたいですけど、やはり素晴らしく作ってくる。僕は、すごく安心しています」

元乃木坂46の女優深川麻衣(28)が信介の隣の部屋に住む謎の女、戸波早紀を演じる。吉田、稲森と並ぶ“トリプルヒロイン”。大抜てきだ。

「頑張っていますよ。やっぱりプレッシャーがあると思うけど、意気揚々と演じている。楽しんでくれているんじゃないかなと思っています」

★「一生食える俳優にする」本当に

中央大在学中からファッション誌「メンズ・ノンノ」のモデルとして活躍。87年にトップアイドル南野陽子の相手役として映画「はいからさんが通る」で俳優デビュー。だが顔だけのイメージが先行、一時低迷した。

「“モデル上がり”という言葉がありましたね。でも、人との出会いが助けてくれました。いいタイミングで、いい人と出会ったのが自分の運の良さだと思っています」

90年に高倉健さん主演のNHKドラマ「チロルの挽歌」に自ら志願し、その他大勢の作業員役で出演した。

「何か残っている役はないかと、マネジャーにお願いした。健さんと現場が一緒で、絡む役が1つだけあった。探してもらってから3、4日ですぐに撮影に入ったけど、あれはよかったですね」

93年につかこうへい氏作・演出の舞台「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」で、それまでのイメージを180度くつがえすバイセクシュアルの部長刑事役で主演し、再び注目を浴びた。

「つかさんに出会っていなかったら、その後の俳優人生がどうなっていたか分からない。つかさんが『阿部、お前、一生食える俳優にしてやるから』って。当時は『それはどうなのかな?』って思ったこともあった。だけど今、考えてみると、あの舞台がなければ世の中に認められなかった。つかさんがリップサービスで言ってくれたことが本当になった。感謝しています。『まだ結婚できない男』の桑野も、コミカルな部分を『熱海-』から持ってきている。本当に感謝しかないですよ、つかさんには」

00年には仲間由紀恵とダブル主演したテレビ朝日系ドラマ「TRICK」シリーズに出会った。自称天才物理学者の上田教授役だ。

「最初に堤幸彦監督にお会いした時、どう僕を料理してくれるんだろうと思った。それが上田教授(笑い)。老若男女、いろいろな人に見てもらえたのが大きかった。そして40代になって、ようやく少し一人前になったと思ったのが『結婚できない男』でした。やっと形あるものに仕上がった」

今、55歳。俳優になって30年以上たった。

「いつかセリフが言えなくなったりするんだろう。見すぼらしいかもしれないけど、年寄りになっても役者をやっていきたい。多くの先輩たちが『セリフが言えない』とプライドでやめていった。でも、僕はやってほしいんですよ。だから自分はセリフを言えなくなって、たたずんでるだけでもいいから。年をとった人間が、人として美しいと思っているので。出ない人たちはもったいない、自分は出ていきたいと思う」

生涯役者が目標。

「やりたい。使ってくれる人がいたら(笑い)」【小谷野俊哉】

▼「まだ結婚できない男」で共演する吉田羊

13年前、視聴者としてこのドラマを見ていたので、オファーをいただいた時の感想は「まだ結婚していなかったのか!」でした。私に務まるかと不安もありましたが、何より阿部寛さんとぜひお芝居したいという気持ちが勝ちました。シリアスからコメディーまで幅広く、どの役にも説得力がある。加えて、嫌な役をやっても憎まれないのは阿部さんの人間力なのだろうなと思います。キャラクターの人物造形や俳優としての在り方には共感することばかりで、今回間近で阿部さんの役作りを拝見できること、一緒にアイデアを出し合ってシーンを膨らますことが、とても楽しみです。

◆阿部寛(あべ・ひろし)

1964年(昭39)6月22日、横浜市生まれ。中央大理工学部在学中の85年モデルデビュー。87年俳優デビュー。93年舞台「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」主演。ドラマでは00年テレビ朝日系「TRICK」、03年日本テレビ系「最後の弁護人」、06年フジテレビ系「結婚できない男」、15年TBS系「下町ロケット」など数々の作品で主演。映画でも08年「歩いても歩いても」、12年映画「テルマエ・ロマエ」などで主演。「テルマエ-」では日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、ブルーリボン賞主演男優賞などを受賞。189センチ。

◆フジテレビ系「まだ結婚できない男」

53歳の偏屈で皮肉屋の建築家、桑野信介は独身。弁護士の吉山まどか(吉田羊)カフェ店長の岡野有希江(稲森いずみ)隣人の戸波早紀(深川麻衣)らを相手に果たして恋が芽生えるのか…。

(2019年10月20日本紙掲載)