東京初上演から100年、宙組誕生20周年の今年、同組新トップ真風涼帆(まかぜ・すずほ)は、12日から東京国際フォーラムでトップ初主演作に臨む。作品は傑作ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」。青春群像劇での船出に、新生宙組を率いていく“新米トップ”としての覚悟を重ね合わせている。公演は25日まで。梅田芸術劇場公演(7月24日~8月9日)も新たに決まった。

 新人時代から期待された大器がついにトップに就いた。

 「年の始まりに舞台に…役者冥利(みょうり)だな、と。日本人なのでね、お正月はやはりね。ありがたいです」

 トップ初作品はミュージカルの傑作「ウエスト・サイド・ストーリー」。1950年代の米ニューヨークが舞台。少年グループの争いの結果、犠牲となる若い男女を描く。

 「作品は知っていましたが、自分がやる意識では見ていなかったので、あらためて見直しました。ただ、ロミオとジュリエットには、2度ほど(笑い)出演しましたので」

 物語は「ロミオとジュリエット」に着想して作られ、真風は星組時代、同作に2回出演。世界観は把握していた。若者の青春群像劇だ。新生となったばかりで、自らが率いる宙組の現状に似ている。

 「(振付・演出の)ジョシュア・ベルガッセ先生も、『チームワーク、役者人生、次につながる大切な作品になるはず』とおっしゃっていた」

 ただ、確たるリーダー像はまだ湧いていないという。

 「それでも宙組の歴代トップさん、上級生が紡いできたものを、自分も次につなげていかないといけない。その大枠の思いはあります」

 06年に入団。星組に配属され、元トップ柚希礼音の退団公演を最後に組替え。前宙組トップ朝夏まなとの大劇場お披露目から宙組へ。同じ九州出身の朝夏を支えてきた。「朝夏さんは姿勢で(トップ像を)体現してくださった」。妥協なき稽古場。厳しくも、愛にあふれたゲキが飛んだ。

 「本当の愛情って、その子が舞台で恥をかかないために、厳しく、苦しいこともどんどん言うことだと思う」

 星組時代には、6年超え在位だった“レジェンド”柚希の背中も見てきた。

 「トップ6年…。柚希さんが抱えられていたプレッシャーは、想像もつかない。でも、あの時代、その瞬間に(柚希星組の)組子でいられたことは幸せだったと感じます」

 「体育会系気質」と言われた“柚希・星組”で新人公演で5度主演、下級生時代から本公演でも大役を得た。抜てき続きゆえの苦しみも。

 「毎回、滝に打たれているみたいな感じ。でも、そのすべてが今の自分を作っている。先生方、上級生が愛情で育ててくださった。ぺっちゃんこにつぶされたら、膨らむしかない(笑い)」

 頂点に立ち、受けてきた愛の深さ、重さを痛感する。

 「お芝居、振付、歌は先生が教えてくれるけど、男役の美学、タカラジェンヌたる者のありかたは、先輩からしか学べない。それが宝塚の伝統です。伝えていきたい」

 美容院で読んだ雑誌に「オヤジたちよ、叫べ」という特集記事があり、部下に嫌われるのを恐れ、厳しく指導しない上司が増えていると書かれていた。「叫べ! あたしも叫ぶ! と。きれい事は性に合わない」と笑う。

 星組時代に一緒だった芹香斗亜が、花組から宙組へ移ってきた。「お互い、刺激しあえる存在になれたら」。新年の抱負は「今を生きる!」。こう、色紙にしたためた。スタートダッシュを決め、節目イヤーの新生宙組をけん引していく。【村上久美子】

 ◆ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」(演出・振付=ジョシュア・ベルガッセ氏、演出補・訳詞=稲葉太地氏) 1957年にブロードウェーで初演。ダイナミックなダンス、心に響く楽曲で魅了し、大ヒットしたミュージカルの最高傑作の1つ。宝塚では68年に月・雪組合同で上演、98年に月組、99年は星組でも再演され、好評を得ている。

 物語は、シェークスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」に着想。当時のニューヨークの社会的背景を織り込みつつ、2つの少年非行グループによる抗争、その犠牲となる若い男女の2日間の恋と死を描く。

 ☆真風涼帆(まかぜ・すずほ)7月18日、熊本県生まれ。06年入団。星組配属。男役らしい大型スターとして期待され、09年「My Dear New Orleans」新人公演で初主演。11年にバウ初主演。新人主演は5回を数え、星組主力へ成長。15年5月に宙組へ。16年「エリザベート」では難役のフランツを好演。昨年11月20日付で朝夏まなとの後任として宙組トップ。身長175センチ。愛称「ゆりか」「すずほ」。