【演出の言葉】「人の思いを象徴させるアイテムとして、虫は最も適切」

トンボ、ホタル、アリなど、このところさまざまな虫が登場するNHK大河ドラマ「麒麟がくる」について、演出の一色隆司氏が語った言葉です。22日に放送された33話「比叡山に棲(す)む魔物」の比叡山焼き打ちで戦国時代がいよいよ香ばしくなってきた中、虫たちもなかなかの“演技”で作品を盛り上げています。

虫好きキャラの足利義昭(滝藤賢一)が将軍となる前後あたりから、さまざまな虫が義昭の心情や変化を表すメタファーとして登場し、SNS上も「虫大河」「虫シリーズ」などと話題です。33話では、虫かごの中で死んでいるトンボを、義昭が無慈悲に地面に捨てる場面が描かれました。弱い者に思いを寄せ、どんな命も大切にした僧侶時代の姿とは明らかに違う不穏が、地面に転がるトンボから伝わってきます。

一色氏は「トンボがカゴの中で死んでいるというのはとても意味があること。義昭がトンボの命をあんなふうに扱うようになったという心境の変化を描いたシーンでもあります」。

このトンボは前週、ロマンスの渦中にある薬売り、駒(門脇麦)のためにおみやげとして捕獲してきたもの。虫かごの中で必死に羽ばたいていた姿が印象的だっただけに、死と、その扱いのコントラストにざわざわ感があります。そもそも、かつての義昭なら、命をかごに閉じ込めて愛でたりはしないんですよね。権力の座で少しずつズレていく義昭の変化を、トンボで表現した名シーンと感じました。

振り返れば、25話ではチョウの羽を運ぶアリに自分を重ね、「将軍という大きな羽は1人では運べない」。人を信頼し、素直に頼れる平和主義者でした。32話では、後戻りしないムカデが枕元にやってきたことを「めでたき印!」と声を裏返らせて戦場へ。何ともいえない浮きっぷりと違和感を漂わせています。30話では、駒とのロマンスの場面で、ホタル狩りデート。寝所の蚊帳の中のホタルが、義昭の孤独を浮かび上がらせていました。

義昭以外にも、虫のシーンはいろいろ。31話では、木下藤吉郎(佐々木蔵之介)が撤退戦のしんがりという命がけの大役を願い出る際に、飛べない甲虫「ヒメマイマイカブリ」に自らを重ねています。地面をはい回って一生を終える虫を手に取り、「わしにも羽はある。飛ばぬ虫で終わりたくない」。33話では、朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)が「お経を唱える者とのいくさに勝ち目はない」というくだりを“わいて出る虫”に例えています。

昆虫の効果について、一色氏は「カゴに閉じ込められている感覚だったり、飛べるものが飛べなくなったり、逆に自由に飛んでいたり。戦国時代の『命』や『生きる』ことを描く上で、虫は象徴的」とし「虫たちもすごくいい演技をしているので、何かを感じてもらえたら」。

虫に限らず、作品ではこれまでもニワトリやオウム、金魚など、あらゆる生き物が重要なシーンで描かれてきました。考えてみれば、タイトル自体が架空の霊獣であり、さまざまな命を描くのは必然なのかもしれません。今後もいろいろ生き物が出てくるそうで、「生き物に対する愛情は、人間と同じくらいある。生き物たちの表現がどう人物に返ってくるか、楽しみにしてほしい」としています。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)