「青いイナズマ」「夜空ノムコウ」など、SMAPをデビューから10年間手掛けた音楽プロデューサー、野澤孝智氏(56)が、「GONZO(ゴンゾ)」名義でアーティスト活動を始め、このほど自主制作アルバム「The Balcony Cruise(バルコニー・クルーズ)」を発売した。一方で、富山県南砺市の委嘱を受け、なぜか「婚活大使」としても駆け回っている。マルチすぎる活動を本人に聞いた。

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 -SMAPをはじめ多くのスター歌手をプロデュースしてきた野澤さんが56歳でアーティストデビュー。経緯を教えてください。

 野澤 一生音楽をやって食べて行きたいという中で、歌を歌う道というのも設計図の中にもともとあったんです。声楽をやっていた音大時代はミュージカルやオペラにも出ていたし。自分のベースにある「歌を歌う」という原点に立ち返ろうと。

 -音楽プロデューサーのイメージが強いのでちょっと驚きました。

 野澤 ですよね(笑い)。24歳でビクター入って、45歳で退社。辞めて11年目になりますが、僕、音楽プロデューサーという仕事はなくなるなと思ったんです。大仕掛けのCDが潤沢に売れて、人の目がそこに向いていて、プロモーションが効く時代は僕らの仕事はあるけど、今や見たことも聞いたこともない人が特定の世界に支持されて東京ドームを埋めちゃう時代。誰がどこで支持してるのと感じた瞬間に、僕らの仕事はもうないと思うんです。逆に言えば、ちゃんと音楽らしいことをできる時代になったのかなと。

 -というのは。

 野澤 支持してくれる一定層の人たちのために音楽を作るという純粋なやりとり。大きなレコード会社で大仕掛けのCDを作るのは、ゼネコンが橋をかけたりトンネル掘ったりするのと同じ。SMAPでも、それこそ橋をかけるような大きなプロジェクトを心掛けてきた。今はCDが売れない世の中の状況があり、予算もない。大風呂敷でできないなら大企業でやっている意味がない。だったら、ゼネコンじゃなく、コンセプトを特化した宮大工になろうと思ったんです。歌もエンジニアも出荷も、入り口から出口まで全部1人でやって。

 -そうして作ったアルバムですが、お声もアレンジもものすごくおしゃれですね。「ゴッドファーザー 愛のテーマ」「恋に落ちた時」などの世界のスタンダードやオペラの名曲など、13曲をその国の言葉で。聴いていると地中海クルーズ気分というか。

 野澤 まさに、バルコニーにいながら世界を旅している気分を楽しんでもらいたいというタイトルなんです。ボサノバ、カンツォーネ、スパニッシュ、メキシカンなど、自分が影響を受けた13の曲を選びました。「ゴッドファーザー 愛のテーマ」は、原曲通りシチリア語でカバーしました。このアルバムの核になっています。

 -大滝詠一さんの「カナリア諸島にて」もカバーしていて。

 野澤 高校生の頃、サーフィンに行く時によく聞いていて。僕のプロデューサー論理は大滝さんに教わったものなんです。27歳くらいの時に毎日のようにスタジオに呼ばれて。ビクターの301と302の壁を抜いて60人くらい入って「せーの」で撮るんですけど、ファーストテイクでもう大滝さんのサウンド。個の力の引き出し方、環境の作り方など、圧倒されました。

 -アルバムは公式ホームページ(https://gonzo.style)での販売ですが、どういう人に聴いてもらいたいですか。

 野澤 シチュエーションのいいところでお酒飲んで音楽聴いて、でも1万円くらいかかります、というライブを楽しめる大人層。日本って、そういうスタイルで音楽を楽しむ場が少ないのが残念です。去年からライブ活動も展開中ですが、1000人の中に僕の歌を気に入ってくれる人が1人でもいて、作品を手に取ってくれたらいいなと。100万枚なんてみじんも考えてません(笑い)。

 -ところで、もうひとつの肩書「婚活大使」って何ですか(汗)。

 野澤 日本を変える大事な事業なんですよ(笑い)。富山県の南砺市が、結婚できない男性市民に全国からお嫁さんを探す婚活プロジェクトを予算組んで真剣にやっていて、それをプロデュースする「婚活大使」に委嘱されたんです。昨年、あるご縁で市主催の婚活セミナーで講師を務めたらいきなり10組のカップルが誕生して、市が「こんなこと初めて」と驚いてしまって。「普通の男の子を国民的アイドルグループにしたプロデューサー」と男の育成を期待され、市長から委嘱されてレギュラーになってしまった。

 -何をプロデュースしても敏腕でおもしろいです。

 野澤 いや、大変なんですよ(しみじみと)。最初驚いたのは、男性たちが「名前と年齢」という自己紹介も満足にできない。畑に出て帰ってきて、特に家族ともしゃべらない生活が長いと、いざ女性を前にした時に何もしゃべれなくなっちゃう。バスで観光名所を回るんだけど、朝集合した時に、シャワー浴びっぱなしで髪形がひどいとか。清潔と清潔感は違う。人に会う最低限の身だしなみくらいやれというレベルから、「野澤孝智の男塾」としてアドバイスしています。こんな婚活大使、全国で俺だけだと思う(笑い)。

 -結婚したカップルはいるんですか。

 野澤 この前、1組結婚したんですよ。彼らの地元と日本の未来に貢献できて本当にうれしい。僕の「男塾」で何かを感じてくれた人が女性にちゃんとアタックしている姿を見ると、泣けるほど感動します。ベストな運営を市の皆さんと模索しているところ。

 -音楽プロデューサーのスキルが婚活大使に役立つ面はありますか。

 野澤 相当あります。アイドルって、本人は詞も曲も書かない。こっちが用意したものを表現するわけで、どんな土台に載せたら光るのかと考えて曲を作るんです。ちょっとアドバイスするだけで自分で歩ける子もいれば、強く引っ張らなきゃいけない子もいる。パッと会ってしゃべると、どうしてあげたらいいのか分かるんです。SMAPもそうだった。僕はデビューから10年までの担当でしたが、幸せ者ですよ。

 -音楽プロデューサーで結果を出し、婚活大使でも結果を出して。すごいですね。

 野澤 いや、こっちで結果出したいんですよ。アルバム「バルコニー・クルーズ」で(笑い)。

 ◆GONZO(ゴンゾ) 本名野澤孝智。1960年、東京都生まれ。武蔵野音大声楽科卒。ビクターエンターテインメントに入社し、音楽プロデューサーに。松本伊代、荻野目洋子らのほか、SMAPをデビューから10年間担当。「がんばりましょう」「青いイナズマ」「SHAKE」「夜空ノムコウ」など黄金時代を築き上げた。07年に独立し、関ジャニ∞、フェアリーズほか多数をプロデュース。ホームページはhttps://gonzo.style