お笑いコンビ・カラテカの矢部太郎(40)の漫画デビュー作「大家さんと僕」(新潮社)が、累計発行部数20万部を超え、反響を呼んでいる。矢部がニッカンスポーツコムの単独取材に応じたインタビュー第3回は、進境著しい俳優業など近年、クリエイター色を強める矢部に今後の夢を聞いた。

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 「大家さんと僕」は、漫画原作の倉科遼氏から映画のプロット(あらすじ)を書くよう提案されたことがきっかけで生まれた。矢部自身、映画愛好家として知られ00年「GO-CON! JAPANESE LOVE CULTURE」への出演を皮切りに俳優業に進出。17年は「獣道」(内田英治監督)、「蠱毒(こどく) ミートボールマシン」(西村喜廣監督)と出演した2本の映画が公開された。また08年には、つかこうへいさんの舞台「幕末純情伝」で土方歳三を演じたことで舞台にも活動の幅を広げた。17年は、4月に東京と大阪で上演された劇団ONEOR8の公演「世界は嘘で出来ている」(再演)で、生と死を問う物語の中でコミカルな動きで強烈な存在感を発揮した。

 -演劇の舞台はお笑いとは意味合いが違うか?

 矢部 作家の人が作った作品の中に入る、一部になること。書かれたせりふを読むって、面白いですね。

 -お笑いのボケ、ツッコミとは全然、違う

 矢部 お笑いは笑いがないとダメですが、舞台で笑いを取ることがあっても全部、演出の人が作ったもので、言われたとおりやっているだけなんです。そういう(笑いを取る)役目で出させてもらっているのも、あると思うんですけど。

 -近年、俳優業にこだわっている。大きな映画への出演オファーは?

 矢部 ないんですよね…でも、出たいですね。

 -小さくても映画の監督、脚本、主演はしたい?

 矢部 すごく興味がありますね。最近、監督はやってみたいです。漠然とですけど…(米国の)ウディ・アレンみたいに監督、脚本、主演みたいなものをやってみたい。

 -以前、監督をしたいとは言っていなかった

 矢部 漫画を1こ、書いてみて興味を持ったのもあるでしょうね。

 -映画監督としても活躍する、1代上の先輩の品川庄司・品川祐(45)から「大家さんと僕」の映画化について「いけるよ」と言われたのは自信になった?

 矢部 そうですね。映画のことは全然、分かっていないですけど、映画のシナリオの書き方の本を読んで、構成を考え、映画の1本はこういう感じだというのを僕なりに勉強し、編集の方にもアドバイスをいただいて1冊としての起伏を作り、漫画にしました。そういうところも含めて、本として完璧な1冊に出来たと思う。僕の中では「サザエさん」のような連載漫画の1巻を書いたのではなく、長編を完結するような勢いで書いたんです。書いていないエピソードもあるんですけど、1つのものとして過不足なく書いたつもりで、続編のお話があるなんて全く思ってもいなかった。

 -続編を書くとしたら映画のスピンオフみたいな考え方じゃないと書けない?

 矢部 実際、そういう話をしていて…。担当者と話して、続編の切り口が1つ、ちょっと見えたんです。

 -海外の映画祭の経験は

 矢部 韓国の釜山映画祭に2年前に行ったことがあります。(出品された)映画に出ているわけじゃなく見に行っただけですが。(国際的に評価が高い)キム・ギドク監督やソン・ガンホが同じ居酒屋で普通に飲んでいたり映画熱はすごいと思いました。キム監督としゃべっていて「日本の有名なコメディアンです」とウソの説明をしたら、ソン・ガンホに僕のことをそう紹介して「じゃ、写真を撮ってくださいよ」と握手を求められた。有名って、向こうが想像しているのと違うじゃないですか(笑い)

 -韓国から映画出演のオファーが来たら?

 矢部 出ます!! 出ます!! 文化的には共通点がありますからね。お笑いも盛んですし。「進ぬ!電波少年」(日本テレビ系で98年から02年まで放送)の「~人を笑わしに行こう」で、ハングルも勉強したことがあるので、キム・ギドク監督と話が出来たんです。韓国映画とのコネクションはあるんです!!

 -「大家さんと僕」は、韓国から翻訳のオファーが複数あり、台湾からも…

 矢部 えっ? ヤバい! 生で会って、1番うれしかった人かも知れないガンホさんと、また会えるかも知れませんね。

 -ますます、クリエイターの方向に進んでいる。矢部太郎は、どこに行く?

 矢部 やはり漫画って、すごい芸術だなと思っていて。漫画で出来ることはいっぱいあると分かりました。映画を作るには、お金がかかってしまうし(製作に関わる)いろいろな人の意見が入ってきて、すごい大変で、ここまで自分の思ったとおりのものは出来なかったと思う。もちろん編集の方とのやりとりはあるんですけど、思った通りにイメージしたものを作りアウトプット出来る日本の漫画って、やっぱりすごいなぁと思いました。俳優業は、それ自体、自分で作るわけじゃないですから。でも舞台もテレビドラマも何でも出たい。お笑いも新ネタを作り続け…入江君とのコンビも、もちろん続けていきます。(ジャンルを)減らさずにやりたい。何か始めたから、何か辞めなくてもいいかなと思っています。

 -世の中に対してメッセージを

 矢部 世の中に対して、何か言うというのは苦手なんですが、勝ち負けとか、競争がない世界を世の中も求めているのかも知れませんね…もちろん(現実は)あるんですけど。勝ち負けや競争という観点から見れば、僕や大家さんは負け組かもしれないですけど。(読者から)「大家さんと僕」にはお年寄りに対する考え方、死生観などが出ていると言われました。自分が本当に思っていること、いいなと思えること、こうあって欲しいと思っている世界を書いた。それを、いろいろな人に読んでもらえたのは、うれしいですね。

 -今の世の中に生きづらさや冷たさは感じる?

 矢部 感じていますね。効率とか、すごく優先しますもんね。「大家さんと僕」は内容もそうだけど、1カ月4ページの連載で2年くらいかけて1冊にしました。今は何カ月とかで効率よく単行本にする時代だと思うので、なかなかない。(新潮社が)待ってくれてありがたいです。

 -願いは

 矢部 1人でも多くの人に伝わって欲しいとは、実は思っていなくて、こういうものをいいと思う人がいっぱいいてくれて、良かったなという感じが今は強い。それがうれしいんです。

 お笑い、俳優、漫画家…活動の幅を広げる矢部は、笑いと喜び、感動を生み出すクリエイターとして今日も突き進む。【村上幸将】