新宿の劇場のトイレから出たところで、ある男性とすれ違った。「どこかで会ったことがある人かな」と思ったけれど、なかなか名前が出てこなかった。そして、舞台を見ている時に突然、思い出した。「文部科学省の元事務次官、前川喜平さんだ!」。劇場ではいろいろな人に出会うが、それは俳優や女優だったり、演劇関係の知人だったりする。前川さんのような「時の人」は珍しい。

 ちなみに、上演された舞台は青年劇場「きみはいくさに征ったけれど」。いじめにあって、家にも学校に居場所を見いだせない高校生の前に、1人の青年が現れる。彼は軍国主義一色の窮屈な時代に生き、学徒動員で戦地に向かった後も、「五月のように」「骨のうたう」などみずみずしい感性の詩を残した竹内浩三だった。高校生の前に、死者となった浩三が度々現れ、生きたかった彼の言葉に、自殺を考えていた高校生も立ち直っていく。

 前川さんについては報道される以上のことを知るわけではないが、文科省を退官した後も、「いじめ」という教育の今日的テーマを取り上げた舞台を見に来た前川さんの姿勢は、信頼するに値すると思った。

 姿を見かけた直後に、前川さんが名古屋の中学校で講演したことに、文科省から問い合わせが入り、その裏には自民党の文教族議員が関与していたとされる。この手の文教族議員が、こういう舞台を見たことがあるか、関心を抱いているかは分からない。

 前川さんに舞台を見た感想を聞きたいと思った。