少々オーバーかもしれませんが、日々取材を続ける中で多くの「人が夢をかなえる瞬間」に直面できるということは、記者という職業の魅力の1つではないかと感じています。

先日も、1つの夢がかなう瞬間を取材する機会がありました。秋元康氏が総合プロデュースする劇団4ドル50セントの本西彩希帆(もとにし・さきほ=20)が4月5日、東京・日本青年館ホールで、ミュージカル「『薄桜鬼 志譚』風間千景篇」の初日を迎えました。ヒロインの雪村千鶴役を演じています。

プロ野球オリックスなどで活躍した本西厚博氏(56)を父に持つ本西は、保育士を目指す普通の高校生でしたが、「薄桜鬼」がきっかけでエイベックスのオーディションを受けて合格。17年の8月に劇団4ドル50セントの旗揚げメンバーとしてお披露目されました。そして、芸能界入り当初から、常に「いつかミュージカル『薄桜鬼』で雪村千鶴ちゃんを演じるのが夢です」と言い続けていました。

髪をバッサリ切ってショートカットにし、ひたむきに努力を重ねる姿勢で着実に実力をつけ、地道にファンを獲得していきました。これまで上演した2回の同劇団の本公演で、どちらもメインキャストに選ばれました。次第に、夢が現実へと近づいていきました。

昨年秋、ついにチャンスが訪れました。「薄桜鬼」、雪村千鶴役のオーディションです。努力を重ねた歌や演技はもちろんですが、とにかく「薄桜鬼」への愛は誰にも負けないことをアピールし続けました。キャリアは浅いながらも、候補者随一の作品への愛が評価され、夢だった雪村千鶴役を勝ち取りました。

出演が決まってからは、さらに努力を重ねました。他の候補者に比べて、歌唱力で劣っていることは十分、自覚していました。ボイストレーニングや、歌唱レッスンを繰り返しました。大好きな雪村千鶴役を演じるに足る理想の女優像に、少しでも近づけるように。

初日公演の前、本西は緊張からか、落ち着きを欠いていました。地に足がついていませんでした。関係者も「大丈夫かな…?」と心配がっていました。それでも、公演が始まれば落ち着きを取り戻しました。文字通り、夢の舞台。鍛え上げた透明感のある歌声を披露し、堂々とした演技を見せました。関係者は「『薄桜鬼』のお客さんはほとんど女性なのですが、女性ファンからも好かれる愛らしいルックスで、評判がいいんです」と話していました。

本西が夢を実現させたことで、他の劇団員たちも刺激を受けました。前田悠雅(20)は「彩希帆ちゃんを見て、やっぱり、私も夢や目標をどんどん言葉に出していこうと思いました」と言います。「いつかジャッキー・チェンと共演する」と誓う久道成光(26)や、「帝国劇場のステージで歌いたい」と意気込む田代明(23)ら、以前から夢を公言している劇団員も多い。いい意味で「彼女にできたんだから、自分だって」と奮起した劇団員もいることでしょう。

本西が出演する「『薄桜鬼 志譚』風間千景篇」は4月18日から21日まで京都劇場でも上演します。さらに、6月上演の舞台「家庭教師ヒットマンREBORN! the STAGE」への出演も決まりました。「2・5次元舞台を代表する女優になりたい!」。早くも、次の夢に向かって突き進んでいます。

もちろん、中には不言実行タイプのタレントもいますし、淡々と目標を達成していく姿も魅力的です。どちらがいいとか、悪いとかではありません。ただ、夢を公言している人が本当に夢をかなえる瞬間というのは、記者として目が離せないし、これからも追い続けていきたいと思うのです。【横山慧】