ジャニー喜多川さんの信念の1つに「平和でなくてはエンターテインメントは成立しない」がある。

太平洋戦争と朝鮮戦争での実体験が原点にある。最近の舞台「少年たち」でも「ジャニーズ King&prince アイランド」でも戦争シーンがある。若いアイドルたちが神風特攻隊を演じた。「過去を学ぶことは暗い悲しみの歴史を学ぶこと」という趣旨のセリフがある。ジャニーさんは「昔を生きているからこそ平和の尊さが分かる。フィクションではなく、真実の重みを伝えたい」と話した。演じるアイドルも、会場を埋め尽くす女性ファンも戦争を知らない。ジャニーさんが演者にもファンにも胸に刻んでほしいメッセージだった。

「平和」への思いは、チャリティー活動にも表れていた。天災が人々の命を奪い、社会の安寧を乱すと、即座に行動に出た。

阪神・淡路大震災(95年)では、関西出身メンバーのいるTOKIO、V6、KinKi Kidsでユニット「J-FRIENDS」を結成。CD購入が募金になるなどの活動を行った。ジャニーさんが人脈を生かし、マイケル・ジャクソン、ジョン・ボン・ジョヴィ、エルトン・ジョンらに曲提供の協力を呼びかけた。B’zの稲葉浩志も日本語詞で協力した。

ジャニーズのアイドルたちには、毎年バレンタインデーに4トントラック何十台分のチョコレートが送られて来ていた。メンバーは「僕たちへチョコを送ってくれる温かい心を、ぜひ被災地に」と訴えた。これ以降、ジャニーズへのバレンタインチョコは激減した。

東日本大震災(11年)でも、ジャニーズタレントが総出で募金活動を行う「Marching J」という支援プロジェクトを行った。タレント側からも「何かやらせてほしい」と声が上がった。ジャニーさんの考えが浸透していた。プロジェクトについてジャニーさんは「頑張って、ではなく、あなたとともに歩いて行きますという意味です」と話した。近藤真彦も少年隊もSMAPも嵐も、東京・代々木第1体育館前広場などに立ち、募金を受け取り、心から感謝した。

約1年間のプロジェクトで集まった募金は約9億2100万円。この目録を東北被災県の各知事に手渡したのが、ジャニーさんの後継者となる滝沢秀明氏(37)だった。滝沢氏はジャニーズJrの発掘、育成、プロデュースだけでなく、ジャニーさんの平和への思いをも継承していくだろう。

ジャニーさんの最大の信念は「Show must go on(何があろうと、ショーの幕は開けなければならない)」。そのためには「平和」でなければならない。ジャニーさんの、すべての人への遺言である。【特別取材班】