14年の映画「百円の恋」で第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した、脚本家の足立紳氏(47)が自伝的小説「それでも俺は、妻としたい」(新潮社)を出版し、その赤裸々な内容が評判を呼んでいる。足立氏と、03年に結婚した妻の晃子さん(43)が日刊スポーツの取材に応じ「それでも俺は、妻としたい」の元となった夫婦生活を語った。第3回は、時にののしり合いながらも笑顔が絶えない足立夫妻に、夫婦関係を維持するためのポイントを聞いた。【取材、構成=村上幸将】

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結婚から16年たっても、足立夫妻は2人の子ども(長女、長男)の前でも、互いを名前で呼び合う。そのためか、出会った頃から互いの印象は変わっていないという。

足立氏(以下、足立)普段は名前で呼んでいます。自然に出来ている。出会った時の感覚はお互いの間で、まだ残っているなって話したよね。

晃子さん(以下、妻)パパ、ママって呼ぶの、嫌ですよね。私は43歳で紳が47歳なんですけど、出会った20歳と24歳の時みたいな間柄だから。紳が老けたとも思わないし、私の中で変わっていない。紳も私が20歳のまま…すごく変わっていると思うんですけど。

足立 それが良いか悪いか、分からないですけど。

妻 成長していないんですよね(苦笑い)

そんな2人にとって「それでも俺は、妻としたい」は特別な作品になった。

足立 最初は(妻の)正体を暴いてやるみたいな部分もありました。そんなに女の人と付き合ったこともないので、みんなこういう感じなんだと思っていたら、友だちに夫婦関係のことを話したら「奥さんのこと、そのまま書いた方が良いよ」って言われたりもして。彼女みたいなタイプが珍しいとも思っていなかった。恐る恐る、自信がなく…本当に面白いのかと全く、分からず…でも書いていくうちに、これが自分に一番、向いているのかなと発見はしたかも。

妻 これ、ネタになるなって、今まで怒っていたことが笑えるようになった。楽しめるようになった。私は以前、普通に外で働いて、帰ってきたりお休みの日などに紳のお手伝いをしていたので、紳は好きなことばっかりやって…という不満があった。今は、私も楽しんじゃっている。紳も一緒にやって楽しめている部分は、あるんじゃないの?

足立 仕事を辞めたからじゃないの?

妻 それもあるのかな?

足立 前よりは、共同作業になったという感じは、すごくしますけどね。

妻 「あれ書いて」「このネタ考えておいて」「調べておいて」と言われた時、今までは二言目には「時間がない」と言っていた。最近は仕事を辞めたので「分かった、やっておく」と言えるようになって、拒否しなくなった。前は子どもを寝かしつけなきゃならない、明日は会社に行かなければならない、お弁当を作らなきゃならないという中、やっつけで紳のお手伝いだったんだけど、私も協力的になった。私も紳に対して(心を)開いている。

-書いている時間は、改めて妻と向き合うひとときだったのでは?

足立 それもあるかもしれないです。妻というか夫婦関係というか…やっぱりセックスシーンを書いている時が1番、楽しかった。

妻 そこは、ずっと言っていた(笑い)

足立 書きながら、したくなってきた、とか…じゃあ、どうやってお願いしようかなとか(笑い)

-中年を過ぎると、互いに関心がなくなる夫婦が多くなるというが

妻 結構、昼間もずっと一緒にいるんですよ。映画を見に行ったり。映画を見終わったら、紳とは全然、感性が違うので毎回、大げんかするんですけど。

-少しでも良い関係にしようと努力している?

足立 あるかもしれないですね。僕は週に1回くらいは、2人で映画を見ようよという思いはある。彼女も僕と映画を見に行くのは嫌だな、面倒くさいなと思う時もあると思うんですよ。でも付き合う。

妻 紳はこういう仕事(脚本家、映画監督)をしているし、私も映画が好きだから苦じゃないのもあるし、見終わった後、しゃべり合う時間も嫌いじゃない。意見が合わなくて毎回、ケンカになるけど「なるほど!」と思うこともある。

足立 結婚した時、行ったこともない与論島に、ふざけて本籍を移したんです。本籍がないところで離婚する時は、戸籍謄本もいるというので、1回、離婚騒ぎになった時に与論島から取り寄せたら、おもいのほか時間がかかって修復したことがありました(笑い)

妻 ママ友に、本気でケンカしない夫婦、そこまで夫に怒らない妻が多くなったって聞きました。それ、どういう家なんだろうと思うんだけど。

足立 まだ言うか? って思うんだけど、逆に考えると、まだ俺に本気になっているんだって…幸せかも知れませんね。

妻 親友みたいな感じには、なっていますね。愛というか…一番いい友だちだとは思っているんです。愛に近いんでしょうけど…マブダチみたい。ラブじゃなく、情。情は、すごいあると思います。愛憎ですけどね。子はかわいいですけど、うちは子はかすがいっていう感じではないですね

足立 別れたくないですね。別れたら…もう、ちょっと生きていくすべが(苦笑い)多分、別れたら、心の部分で、人としてダメになると思います。出て行かなかった理由は、孤独死が怖いというところが、ものすごく大きいんですよ。

-「それでも-」の妻チカは、夫「俺」の才能をひそかに信じている。それこそ、ご夫妻の本質では?

妻 友だちにも「結局(夫の)才能を信じていたんでしょ」みたいなこと、よく言われるんですけど、別に信じていないんですよね。紳って、どんなにクソミソに言ってもへこたれないし、出て行かないし、別れるのに体力がいる(苦笑い)

足立 へこたれてはいるんです…。

妻 面白い人だなとは、ずっと思っていました。書く脚本も面白いなと。何で、売れないかな? って、ずっと思っているんです。

-今後の見通しは

足立 もう、真っ暗です…はっきり言って(笑い)仕事だけだったら、別に何でもやっていけばいいかも知れないけど、自分がこういうことをやってみたいということを、どれだけやれるかを考えると、そんなに明るい未来は見えてこないですね。

妻 現役バリバリでやれるって言ったら、体力的には、あと10年?

足立 あと20年はやれるよ! 今回の小説は、書き直しも、ほとんどなくて。好きなように書いたから正直、最初は原稿を送るのが怖かったんです。ばかと言われるんじゃないかと思って。でも、いいや…小説は別に本業じゃないし、何を言われても仕事がなくなっても、どうってことはないと思って送ったら「面白い」と言われて、これで良いんだと思って好き勝手に書きました。好き勝手やったから余計に届いて欲しいって思いは強いんですよ。

妻 (私小説的小説が出て)恥ずかしくないの? って思うかも知れないけど、私たちのことが元にはなっているけどフィクションだと思っているから。私小説っぽいものを読むのが好きなので、これが面白いと思われて紳に仕事が来ればいいなと思う。紳は普通に生活が出来ない人。会社員にはなれないし、お勤めも出来ないから、どうか物書きで生きていけたら、売れたらいいと思います。

「それでも俺は、妻としたい」の俺とチカは、時にぶつかりあい、傷つけ合うが、心の奥底ではお互いを信じている。そんな2人が生まれたルーツは、ここ以外にはありえない、と思えるほど、なじり合う足立夫妻の間には、血が通った愛がある。