テレビ朝日開局60周年特番「氷と雪に閉ざされた秘境の地 天空のヒマラヤ部族 決死の密着取材150日間」(3月8日午後9時放送)を担当する同局の友寄隆英ディレクター(45)を取材した。

アマゾンでうっかり全身をナス色に染めたり、濁った川の水をゴクゴクと飲んだり。「破天荒のナスD」として強烈なインパクトを残す名物ディレクターだが、いわゆる「出役」を兼ねるようになってからインタビューに応じるのは初めてという。せっかくなので、友寄氏自身のことも聞いてみた。

まず、ナスDとしてテレビ出演していることについて「プロとして見た時、自分は出る人間としてはかなりレベルが低い」と、自分をディレクターの視点で冷静に見ているようだ。

一昨年の年越し特番「無人島0円生活」では、74時間ぶっ通しで起き続けるなど芸人以上に体を張っている。これについては「タレントで格好いい人はいっぱいいるし、面白い芸人もいっぱいいる。自分はそのレベルに何も達してないんですけど、それが分かってるから命がけでやるんです」。また「努力したらちょっとは視聴者も見てくれるんだぞっていうのを、タレントに見せたかったんです。そしたらもっとテレビが面白くなるんじゃないか」と番組やテレビ業界のことを考えてのことという。

同局「陸海空 地球征服するなんて」ではアマゾンの部族と生活し、今回の特番では150日かけてヒマラヤの四季を撮影。過酷な撮影に思えるが「東京の方が酸素濃度が薄い」と、とにかくデスクワークが性に合わないようだ。だからといって冒険家になりたいわけではなく、あくまでディレクターとして視聴者に映像を届けたいという気持ちがある。

「『全く仕事しなくていいですよ』って言われたら、最初から行かないです。僕は東京で仕事をしている方が負荷が大きいので、出た方が楽。で、楽しいんです。生活していくために仕事をする前提で、東京で仕事をするより向こうの方が数段楽しい。それをやる人が少ないだけですね」

長年担当していた「いきなり! 黄金伝説。」が終了し、「テレ朝の粗大ごみみたいになってしまった」と空虚な気持ちになっていたところを、見かねた上司に「何がやりたいんだ」と声を掛けられたのがアマゾン行きのきっかけとなった。

当時の上司から出演者になることを条件に取材を許され今日に至るが、「厳しいけど優しいんです。捨てはしないんです。(番組が)続いている間はめちゃくちゃ怒るくせに、終わったら『どうする?』って聞いてくれるんです」と上司への感謝の思いは深い。

テレビ朝日に中途入社した自分のことを「エリートの局員の人とはだいぶ頭の作りが違う」と大まじめな顔で語るが、「自分がテレ朝にいる理由を考えると、こういうところに行って取材して、それを後輩に背中で見せて。かっこ悪いと思う人もいっぱいいると思うんです。だけど男って結構単純なので。『あの人もやってるし、やらなあかんな』とか思ってくれるかも知れない」。

30代は後輩育成に力を入れたとも話す。現在はゼネラルプロデューサーとして複数の番組を統括する立場だが、ヒマラヤ取材で不在の間に「家事ヤロウ」や「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」など担当番組の多くがゴールデン帯に昇格。「海外生活から帰ってきたら、(ゴールデン番組が)めっちゃ増えてたんです。上の人は『いない方がいいんじゃないか』って言ってますね。後輩はみんな笑ってくれますけど」と冗談めかして話した。

苦労の一端も知らないような立場だが、まっすぐに仕事に臨む姿勢に刺激を受けた。【遠藤尚子】