映画の配給や出版、映画館やレストランの経営などを行う「アップリンク」の元従業員5人が、代表の浅井隆氏(65)からハラスメントを受けたとして16日、東京地裁に同氏と同社に対して損害賠償などを請求する訴訟を起こしたことを明らかにした。請求額は、4人が1人165万円(弁護士費用15万円含む)、1人が100万円。

元従業員らは16日、都内で会見を開いた。その中で、浅井氏から

<1>「精神疾患者を雇った俺がおかしかった」など、人格否定的な発言を日常的に言われた

<2>利用客や自社、他社の従業員の前での叱責

<3>浅井氏が落としたゴミや飲食物を、同氏が拾うことが出来るにもかかわらず、従業員に拾わせる

<4>サービス残業を当然視した言動

などがあったと主張した。

原告の清水正誉さん(34)は「1番、申し上げたいのは日常的なハラスメント。自覚していただき、向き合った上での謝罪。それでも、なおアップリンクが続く場合は改善、ちゃんとスムーズに、いい空気で仕事が出来るような場になってもらいたいのが要望」と提訴した意図を語った。

同じく原告の浅野百衣さん(31)は、アップリンクが人種差別や国家による暴力を批判するような、社会性の高い映画を配給していたと指摘。その上で「作品にひかれて入社した。浅井氏による暴言は日常で、私もそれが日常の一部。長時間労働も日常で…通勤中、電車から降りることもあった。上司もサポートしてくれず、お金が支払われないサービス残業を強要された」と、精神的に追い込まれたことを明かした。

浅井氏は、映画業界においても名を知られたプロデューサーで、メディアに登場したり自ら発信する機会も少なくない。新型コロナウイルスの感染が拡大し、政府が緊急事態宣言を発令した翌日の4月8日から全国の多くの劇場が休業する中、SNSなどを使って、危機に陥った映画館、特にミニシアターに足を運ぶよう映画ファンへの呼びかけも行っていた。浅野さんは「インターネット上で浅井氏の名前を見ると、体がこわばって、つらかった思いがよみがえってくる。同僚が、そういう環境で働いていると考えると心苦しい。これから入社する人のことも考えると、環境を変えず退職したのは申し訳ない」と沈痛な表情で語った。

錦織可南子さん(26)は、入社して数カ月後に休日業務をした揚げ句、業務中に業務場所の近くの「猫カフェ」に「ちょっと寄っていこうか」と一緒に入店するよう求められ、断れず2時間、滞在させられたと語った。また、アップリンクを退社後、同社と取引関係がある他社で働き、3月末に3カ月契約を更新したが、今回の会見を開くにあたり、契約が6月で終了になったと明かした。「アップリンクと取引がある関係性なので、会見に出ないで欲しいと言われた。コロナ禍で経営が傾いて、契約が6月で終わったと言われた。(会社は)会見と相関関係がないと主張しているが、私は疑問を感じています」と語った。

元従業員5人は、アップリンクの元従業員を対象にした被害者の会「UPLINK Workers's Voices Against Harassment」の立ち上げも発表。浅井代表や同社の他の人物によって直接、尊厳を傷つけられた人やパワハラを見聞きしたり、違和感や働きにくさを感じた人の相談を受け、何が出来るかを考えていくとした。