第32回「フジテレビヤングシナリオ大賞」の受賞者が決定して、26日、東京・台場のフジテレビで授賞式が行われた。遠藤龍之介社長(64)から大賞の的場友見氏、佳作の湯田美帆氏、横尾千智氏、山崎力氏に賞状が授与された。

今回、1567作品の中から大賞に選ばれたのは的場氏の「サロガシー」。主人公・江島環(28)がゲイである兄・江島聡(38)のために、代理母(サロガシー)として妊娠出産することを決意する話だ。主人公の生き方や、その両親や周囲の心境を描いたストーリーになっている。

代理出産、LGBTなどセンシティブな題材だが、登場人物を身近に感じる人物として丁寧に描き出し、人間的魅力で飽きさせずに展開していく構成。また、医療制度、法律、社会通念、倫理観などさまざまな問題に真摯(しんし)に向き合っていることなどが高く評価された。

的場氏は「今年、2020年は特にドラマの力、素晴らしさを実感された方が多い年ではなかったかと思います。そのような年にこのような素晴らしい賞を頂けてうれしく思っています」と話した。

フジテレビ第一制作室の澤田鎌作審査委員長(52)は「最終選考では、流し打ちで内野の間を抜くバッティングではなくフルスイングでホームランを狙える将来の4番バッター候補を選ぶという方針のもと議論を重ねた。大賞はまさにそんな作者ではないか。一見、奇をてらった設定のようでいて、その人物造形は非常に丁寧で、代理出産の問題やLGBTの方々が直面している状況に対し真摯(しんし)に向き合い、現状の問題点を浮き彫りにした上でエンターテインメントとして物語を構築出来ている。その手腕は今後の活躍を大いに期待させた」と評した。

また、佳作には湯田美帆氏の「東京バナナ」、横尾千智氏の「ふぁってん!」、山崎力氏の「男は背中を語る」が選ばれた。

「東京バナナ」は、大阪生まれで喘息(ぜんそく)持ちの小学5年生・公太が、人気者の同級生にお笑いコンビを組もうと持ち掛けられる。公太の東京への引っ越しなどさまざまな障害を乗り越えて、2人が漫才師になっていくドラマを描いた、パワーあふれる作品。

湯田氏は「このような素晴らしい賞をいただけてうれしく思います。『東京バナナ』という作品は“夢はかなう、仲間がいれば”という内容の作品ですが、私自身それをすごく体感したなと思っています。いろんな仲間に助けてもらって、今ここに立つことができたので、その仲間に感謝したいです。とはいえ、ここが本当の意味でのスタートだと思っていますので、お茶の間に笑いや癒やしを届けられる、そんな脚本家を目指してまいります」。

「ふぁってん!」は、夫への不満を持つ人見真希が「報復」の1つとして行った「夫の宝物・マウンテンバイクのチェーン切断」の現場を無愛想な隣人の奏に見られてしまう。その出会いによって、真希は夫に今までの「嫌い」を全部吐露し家を出て行く決心をするという日常に潜むざらっとした狂気や、人物の心境の変化を描いた作品。

横尾氏は「私は今、大学4年生で、学生最後の年にこのような賞をいただけて、今までずっと、親も友達も周りに内緒でちまちま書いて、コンクールに落ちまくってきた自分に(笑い)、ちょっとご褒美をもらえたなと思っています。これからが一番大事だと思うので、もっと書き続けて、将来、物書きになれるように頑張りたいと思います」。

「男は背中を語る」は、駅で痴漢と間違えられて悩む若い男性・眞野が、偶然通りかかった初老の男2人に誘われる。女性の背中を見て妄想を言い合う変態的な遊びに参加するようになるという奇妙な経験から、女性には女性の事情があるということ、思いやる必要があるということに気付き変わっていく姿を描く。短いセリフと掛け合いのリズムが心地よい特徴的な作品。

山崎氏は「このような素晴らしい賞をいただきまして、フジテレビの皆さん、関係者の皆さんに、本当に感謝いたします。セリフやリズムを楽しんで、あまりテーマには関係なく書いたものが、このように評価されて、フジテレビさんの懐の深さをとても感じました(笑い)。初めて今、スタートラインに立てたなと思っておりまして、今後何があっても食らい付いていこう、というのが今日の心境でございます」。

澤田審査委員長は「この4作品の作者には、今回の受賞をきっかけに将来のテレビ、映画をはじめとするエンタメ界を背負う逸材として大きく飛躍して頂けることを期待したい。とにかくバットを振り続けてほしい」と期待を寄せた。