2014年(平26)で起きた大規模デモ「雨傘運動」以降、民主化運動が続く香港社会を描く香港・日本合作ドキュメンタリー映画「BlueIsland 憂鬱之島」の製作関係者が13日、香港と日本とをリモートでつなぎ、会見を開いた。会見には、香港から製作のピーター・ヤム氏と、日本側プロデューサーを務める配給会社太秦の小林三四郎社長が参加した。

香港で20年7月1日に施行された国家安全維持法には、外国勢力と結託して国家安全に危害を加えた罪という罪状があり、民主派に影響力を持つとされる香港紙・蘋果日報(アップル・デイリー)創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏は同罪で起訴されている。小林氏は「香港では、ささいな言動で自由を封じられているような状況が起こりつつあり、公の部分が狭められている。国家安全維持法の中に外国勢力との結託というのがありまして」と、香港と日本で映画を製作すること自体、香港側の製作者にリスクがあると強調。「私たちが気を付けているのは日本で共同製作することで、香港で制作する仲間が困難な状況に陥るのは絶対に避けたい。彼らの安全を担保しながら、必ず完成させたいと思っています」と語った。

「BlueIsland憂鬱之島」は、60~80年代の香港で自由を求めた民衆と、今、民主化運動を起こす若者の姿を、ドキュメンタリーとドラマを重ねて描く。雨傘運動をテーマにした16年のドキュメンタリー映画「乱世備忘 僕らの雨傘運動」のチャン・ジーウン監督が、10年後の香港の未来を描いた15年の映画「十年」のアンドリュー・チョイ・プロデューサーと17年に製作を開始した。

その後、立法会議員選挙で候補者の出馬資格や当選者の議員資格が香港独立支持などを理由に取り消されるなどの事態が発生。その中、制作陣は香港の大きな時代のうねりに身を投じた3人の撮影を始めた。ただ、1年半後の19年に「逃亡犯条例」への抗議を発端とした民主化デモが勃発。さらに国家安全維持法が施行され、香港の中の自由空間は加速度的に狭められているという。

製作陣は、民主化デモの模様なども撮影しているが、当初、用意できた資金は製作費の10%にも満たず製作は厳しい状況にある。その中、「乱世備忘 僕らの雨傘運動」を日本で配給した太秦と馬奈木厳太郎弁護士が共同製作者として参加。新型コロナウイルスの影響で、当初の予定より撮影が9カ月延びたが、現在、編集中。1月には日本国内でクラウドファンディングもスタートした。

小林氏は「この作品が香港の中で上映されるのは、かなり困難であるという状況が予想されます。ミニシアターを多く抱える日本で上映し、世界展開のハブの役割を担いたいと思っています。世界に広げて、香港の現状を知っていただきたいと思う」と、日本から世界に発信していきたいと強調。山形国際ドキュメンタリー映画祭への出品を目標にしており、東京・渋谷のユーロスペースでの上映は内定しているという。

一方で当初、参加予定だったプロデューサーの1人、アンドリュー・チョイ氏は急きょ、不参加となった。小林氏は「(チョイ氏は)香港の外にいる。想定されるリスクを考慮し、不参加となった」と説明した。