俳優辻萬長(つじ・かずなが)さんが18日に、腎盂(じんう)がんにより、亡くなったことが23日、分かった。所属事務所が発表した。77歳だった。

葬儀告別式については、家族の意向で、家族葬にてとりおこなわれたという。

辻さんは、来年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に伊東祐親役で出演予定だったが、腎盂(じんう)がんの治療に専念するため、先月16日に降板することを発表していた。

辻さんは、高校を卒業後に入所した劇団俳優座付属俳優養成所を65年に卒業。 劇作家井上ひさし氏主宰の劇団「こまつ座」に所属し、舞台・映像と幅広く活躍してきた。

主な舞台作品に「人間合格」「きらめく星座」「日の浦姫物語」「父と暮せば」など。

「ボンソワール・オッフェンバック」で文化庁芸術祭優秀賞、一人芝居「化粧二題」で読売演劇大賞優秀男優賞、「雨」「ロンサム・ウェスト」で紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した。

近年の映像作品では、18年NHK「昭和元禄落語心中」、19年連続テレビ小説「なつぞら」、19年TBS連続ドラマ日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」、20年「危険なビーナス」などに出演した。

13日に放送されたNHK終戦ドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」が最後のドラマ出演となった。

公式サイトでは、所属事務所のワタナベエンターテインメント渡辺ミキ代表取締役社長の名で、辻さんの逝去を報告。

「こまつ座在籍中を含め、これまでお世話になりました観客の皆様、演劇・映画・テレビ関係者の皆様に謹んでお知らせ申し上げると共に、故人になり代わって、生前のご厚情を心より感謝致します」と記した。

「辻萬長は、数々の名作演劇作品の柱となった、かけがえのない俳優でした。とりわけ、日本を代表する劇作家・井上ひさし氏の作品への貢献は多大なるものでした」と生前を振り返った。

「2010年の井上ひさし氏逝去後も、俳優として、作家を直接知らぬ観客や演劇人達に、井上氏の遺志を伝え続けました。そして、役を通して、作品を重層的に表現することが出来る、唯一無二の演技力を持つ俳優でした。それは時として、作家自身が意図をせぬ面にまで及び、作品をより高みへと押し上げ、支えたのです」と続けた。

さらに「辻萬長は、作品づくりにはなくてはならない存在で、多くの作家や演出家に愛され、頼られました。演出家・蜷川幸雄氏の作品にも数々出演し、2016年の蜷川氏の葬儀には、『自分は稽古を続け、蜷川作品をより深める』と稽古場を離れず、最後の蜷川演出作品『尺には尺を』を力強く作り上げました」と多くの演出家に愛されていたことを明かした。

演劇における遺作は昨年7月公演の三谷幸喜氏作・演出による「大地」。「井上ひさし氏達からバトンを受け取った世代の三谷幸喜氏が辻萬長に当て書きした役は、辻の俳優人生のラストに相応しい働きをしました。コロナ禍でストップしていた演劇業界の再開公演にもなったこの『大地』で、辻萬長が最後に語った『観客無しで演劇は成立しない』という趣旨の台詞は、多くの演劇人と観客の想いでもありました」とした。

最後に「人生の最期まで良い芝居をしようと切磋琢磨を続けた稀代の名優・辻萬長の仕事は、これからは共に芝居を作った仲間である作り手、そして同業者である俳優の皆さんたちの表現の中に生き続けるのだと思います。それは、辻萬長が井上ひさし氏や蜷川幸雄氏から受け継いで、次の時代に演じ、渡したように」とつづった。