映画の舞台あいさつを取材すると、出演者が必ず発する言葉がある。「このような状況下で足を運んでくださり、ありがとうございます」。

昨年4月、初めて緊急事態宣言が東京に発令された当初、映画の公開延期や中止が多発した。中には、再延期、再々延期を繰り返している映画もあった。

映画の制作会社や配給会社、劇場、出演している俳優陣、楽しみにしているファンなど、さまざまな人が打撃を受けた。

延期を繰り返さずとも、今や、決められた日時通りに公開できることが、どんなにうれしく、喜ばしいことなのか、出演者の言葉からひしひしと感じる。

8月27日に映画「鳩の撃退法」(タカハタ秀太監督)で主演した藤原竜也(39)は「ようやく舞台初日迎えられてうれしく思います。来ていただいてありがとうございます。皆さんの力を借りて、この作品は一人でも多くの人にみていただけたらと思います」と話した。

今月1日に主演映画「浜の朝日の嘘つきどもと」(タナダユキ監督、10日公開)の公開直前イベントに登壇した高畑充希(29)は、変わり果てたエンタメ業界に「去年まではあるのが当たり前というか、当然だったので簡単に見たいと思ったら映画館に行けるし、舞台も行けるし、ドラマの撮影とかも普通にスケジュール通りにできていたんですけど、なくなったときに、『うわ苦しい』と思って。エンタメがなくなっても、『死にはしない』ってみんな言いますけど、私は『死ぬな』って思った。個人的には自粛期間明けて最初のお仕事だったんですけど、その時の自分は、状況が変わって、すごくぐちゃぐちゃしていて、今より不安定でした」と心境を吐露。最後のあいさつでは「お越し頂き、ありがとうございました。出来れば映画館でたくさんの人に見ていただきたいです」と力を込めて呼びかけた。

4日に「科捜研の女-劇場版-」(兼崎涼介監督)の公開記念舞台あいさつに登壇した沢口靖子(56)は「今日の日を無事に迎えられて胸がいっぱいです。ありがとうございます」と感謝。「こんなに大変な事態が起きるなんて、思ってもいなかったですが、諦めずに、ここまできて良かった! 今日この場で、このメンバーで、皆様の前に立つことができて、本当にうれしいです。この映画をみて、少しでも元気になってもらえたなら、私たちは最高に幸せです」と目をうるませ話した。沢口の真横に立ち、出席していた内藤剛志(66)も目に涙を浮かべ「(映画を見る前の)2時間前と今の心の状態が変わっていたらとってもうれしい。何かのきっかけになれば」と力強く話した。

映画とは、撮影し、編集し、完成し、公開し、届けて、初めて完成する。出演者にとって、コロナ禍での公開や、有観客で映画のイベントを行うことはとても貴重なこと。多くの人に映画を見てもらい、勇気や希望を届けることが彼らの本望であるのだと強く感じる。

まだまだ終わりの見えないコロナ禍ではあるが、ただ足を止めるのではなく、感染対策をしっかりとした上で、どんなことが助けになるのか、常に考えて行動すべきだと感じた。【三須佳夏】