先月、東大出身の落語家の春風亭昇吉(41)の真打昇進披露落語会を取材した。会場は、東大・安田講堂。安田講堂といえば、60年代末に反体制派の学生らが立てこもった「安田講堂事件」の舞台だ。

昇吉が大学時代に優勝した全国学生落語選手権「策伝大賞」で審査委員長を務めている縁で駆けつけた桂文枝は「ここが安田講堂か。本当に立派な、建物でございます」などと感慨深そうにあいさつした。

この日、昇吉の真打披露に集まったのは、師匠の昇太、同じ芸能事務所ワタナベエンターテインメントの先輩・立川志らく、そして文枝の3人。テレビの世界でも活躍する大物が、昇吉のハレの舞台に花を添えた。

文枝に続いて昇太も「弟子を取っていいことは1つもないけれど、今日はちょっとだけいいことがあった(笑い)」と話すなど、経験豊富な3人が口をそろえて会場への畏怖を示し、そこで落語を披露することへの喜びを表現したのが印象的だった。東大によると、同会場での落語会は史上初だったという。

同落語会は、東大と、昇吉が所属する落語芸術協会がSDGsを基盤とし、協定などを視野に入れた連携の第1弾として開催された。昇吉の活躍が両者の結びつきの契機になったのは間違いない。「知」や「芸」、「伝統」の融合により、新たな文化創成の可能性に期待がかかる。

安田講堂は、07年に昇吉が卒業式で第1回東京大学総長大賞を受賞した思い入れ深い会場だという。当時の副学長から「真打になった時には、この安田講堂で披露公演をやってもらいたい」と言われたといい、約束を果たした形だ。昇吉は、最高の形での母校凱旋(がいせん)に「感謝の気持ちでいっぱいです。夢がかないました」と心境を明かしていた。

落語会後に取材を重ねるとワタナベエンターテインメント吉田正樹代表取締役会長も東大の落語研究会出身であることが判明。なんとも不思議な縁を感じる、歴史的な落語会であった。