「男はつらいよ」シリーズや最新作「キネマの神様」など数々の映画でメガホンをとっている山田洋次監督(89)が12日、都内で、監修・脚本を務める舞台「一万石の恋 裏長屋騒動記 愛の仮名手本篇」(29日から大阪日本橋・国立文楽劇場)の囲み取材に応じ、コロナ禍における映画界や演劇界の危機的状況を語った。

落語を題材とした同作は前進座創立90周年を記念した公演。山田監督にとっては最新作の舞台となる。「人間ってとっても滑稽な存在っていうこと。それに観客の方が気づいて、これからの毎日が楽しくなっていくっていうことが喜劇の喜び。そんなおかしさにあふれた作品にしたいと思っております」と力を込めた。

「キネマの神様」は昨年3月のクランクイン以降、途中に緊急事態宣言が発令され、撮影を中断するなどした。山田監督は「(コロナ感染者が)100人いくとか、いかないかとか言っていた時期が昨年の6、7月ごろ。ともかく、一応完成して封切りになった。でも客席を半分にされたりね。映画人に与えた影響は大変な打撃。演劇の世界でも同じ。なんといっても文化、芸術が停滞、大打撃を受けている」と指摘。

そして「もっと政府は真剣に考えなきゃいけないんじゃないかな。下手するとこのままもっともっと衰弱していっちゃうんじゃないかなって思います。本当に大ピンチじゃないでしょうか。危機感を感じています」と訴えた。マスクを着用しての舞台観覧には「顔が見れないのはとてもはがゆいです」と話した。

山田監督は13日、90歳を迎える。現在の心境について「僕が初めて落語を聞いて夢中になったのは小学生の下級生の頃だったなと思うと、それは戦前。日本じゃなくて満州の瀋陽みたいな町だったなと。ふと見渡してみると、そんな時代を知っている人は全く周りにはいないなっていう。そういうことを区切りにドキッとする瞬間はありますね」としみじみ話した。