濱口竜介監督(42)が31日、都内で東京国際映画祭コンペティション部門審査委員長を務めるフランスの女優イザベル・ユペール(68)と対談した。2人の対談は、同映画祭が国際交流基金アジアセンターと共催する「トークシリーズ@アジア交流ラウンジ」の一環として実現した。

濱口監督は、3月のベルリン映画祭で監督作「偶然と想像」が審査員大賞(銀熊賞)、7月のカンヌ映画祭では「ドライブ・マイ・カー」が邦画初の脚本賞を受賞した。一方、ユペールは78年「ヴィオレット・ノジエール」と01年「ピアニスト」でカンヌ映画祭女優賞、88年「主婦マリーがしたこと」と95年「沈黙の女/ロウフィールド館の惨劇」ではベネチア映画祭女優賞を受賞と、ともに世界3大映画祭での受賞経験がある。

そんな2人の対談だけに、配信で対談を視聴した映画ファンからは、ユペールに濱口監督作品への出演予定、濱口監督には自身の作品への起用予定を問う質問が出た。濱口監督が「そんなこと、2人に任せておいてください」と笑えば、ユペールも「人前で結婚はしたくないです」とジョークを飛ばした。

濱口監督は「ユペールさんは、映画史そのもののような人だと感じます。脳が、とろけるような気持ち」と対談の実現を喜んだ。そして「私は、俳優は不安な存在だと思って接している」とした上で「カメラの前に立った時の精神的状況は?」と問いかけた。ユペールは「カメラの前に立つのに、怖いと思ったことは1度もない。熱くも、冷たくも、怖くもない。どうでもいい」と返した。その上で「私は何も考えなくて良い。考える必要がない。役をやる喜びだけを考えると良い」と答えた。

一方、ユペールは「ドライブ・マイ・カー」や15年に「ハッピーアワー」など濱口監督の作品を見た上で「監督の映画を見ていて、あまりに真実で、カメラは回っていないと思えた。カメラは回っていないと、映画は存在しないから回っているのでしょう。どうやって自然に撮ったのですか?」と質問した。同監督は「カメラがなかったら、どんなに良い映画が撮れるだろうと思うけれど、カメラは必須条件。作りもの…真実に達することは少ないと共有して(俳優らと)やるということ」と答えた。その上で「基本的に不可能だと分かっていると、少し楽になる」とも語った。

「トークシリーズ@アジア交流ラウンジ」は、是枝裕和監督(59)を中心とする検討会議メンバーの企画のもと、アジアを含む世界各国、地域を代表する映画人と第一線で活躍する日本の映画人が語り合うトークシリーズ。東京国際映画祭の会期中に連日、開催される。【村上幸将】