先日、演歌歌手森山愛子(36)の新曲発表会を取材した。

森山といえば、アントニオ猪木氏が名付け親。猪木事務所でアルバイトしたのが縁で、デビューの際には、いわゆる闘魂注入をしてもらったことを思い出す。04年のデビューから18周年。再来年には節目となる20周年を迎えることになり、日本の演歌歌謡界を支える歌手として存在感を示す。

そして、誰もが「愛ちゃん」と呼ぶなど、愛くるしい笑顔と人懐っこい性格は、ファンはもちろん、スタッフからも愛されている。

森山はここ2~3年、ご当地ソングで勝負してきた。17年の「会津追分」に始まり、19年は「尾曳の渡し」昨年は「伊吹おろし」を発売した。そして、今回の新曲は「ひとり風の盆」。ご当地ソングの集大成にしたいという。

300年以上も続く富山県の民謡行事、越中おわら節にのせて踊る「おわら風の盆」をモチーフにした失恋ソングだ。いつもはロングドレスがトレードマークの森山だが、リリース会見では着物姿で登場。「自分で言うのも何ですが、いただいた時に率直に、素晴らしい、かっこいい曲だと思いました。だからひと言、絶対に売ります」ときっぱり言い切った。

それもそのはず、恩師の水森英夫氏が作曲したメロディーは、1度聞いただけで耳に残る。森山も手応えを感じているのだろう。

八尾(やつお)町(現在は富山市と合併)で開催される「おわら風の盆」は、人口2500人の町に、200万人もの人が訪れる民謡行事だ。越中おわら節の旋律にのって、三味線と胡弓(こきゅう)のどこか寂しげな調べに、日本の奥ゆかしさを感じるファンも多い。街並みも石畳が多く、電柱も地中に埋めてあるなど、知る人ぞ知る人気の場所だ。

そんな土地が舞台の新曲は失恋ソングだが、作詞家かず翼氏の詩は、不倫を想像させる。不倫と書くとちょっとやぼだが、演歌の世界なら、行きずりの恋、忍ぶ恋、道ならぬ恋といったところだろうか。

森山は「私もこの年ですから、恋愛の1つや2つ、失恋の3つや4つは経験しているので、少しは分かります。おそらく不倫なんでしょうね。でも、私はいけない恋の経験はありません」と笑わせる。とはいえ、さび部分のファルセットなどは、忍ぶ恋に対する女の情念を感じさせる。もうすぐ20周年を迎える貫禄をみせる。

コロナ禍なので、歌の舞台の八尾にはまだ行けていないという。おわら風の盆は、一生に1度は見ておきたい祭りの1つと言われているが、昨年、今年と中止になっている。

森山は「来年はぜひ、歌をヒットさせてお祭りにもうかがいたい」と抱負を語る。個人的にも、風の盆は、いつかは見たいと思っている。