直木賞作家朝井リョウ氏の同名小説が原作の映画「正欲」(岸善幸監督、来年公開)で、稲垣吾郎(48)と新垣結衣(34)が共演することが11日、分かった。

小説「正欲」は朝井氏が「小説家としても1人の人間としても、明らかに大きなターニングポイントとなる作品」と語る、作家生活10周年で書き上げた渾身(こんしん)の一作。家庭環境、性的指向、容姿など、さまざまな選べない背景を持つ人たちを同じ地平で描写しながら、人が生きていくための推進力になるのは何なのかというテーマをあぶりだすストーリー。

稲垣が演じるのは、マイホームを持ち、妻と子を養う横浜検察庁に務める検察官(寺井啓喜)。特殊性癖を持つことを隠し、広島のショッピングモールで働く契約社員(桐生夏月)を新垣が演じる。小学校を不登校の息子が世間から断絶されてしまう可能性を恐れる寺井と、自ら世間との断絶を望む夏月が、いつ、どこで、どのように交わるのか。生きることと死ぬことが目の前に並んでいる時、生きるを選ぶきっかけになるものを、1つでも多く見つけ出したいという、映画に込める想いをどう昇華させるかが見どころになっている。

現在撮影中で、10月下旬にクランクアップの予定。

出演者らがコメントを寄せた。

◆稲垣吾郎 脚本を読み終えた時、この作品に関われる事をうれしく思いました。難しい題材にチャレンジする、監督、スタッフの皆様とともに丁寧に演じていきたいと思います。

◆新垣結衣 原作を読んで、何かを問われたような気持ちになりました。それは、「何が正しいか」とかそういう単純なものではないような、でも実はとてもシンプルなことのような気もしました。考え続ける事、想像し続ける事をいつも以上に大切にしながら、制作に臨めたらと思っています。岸監督とは初めてご一緒しますが、初顔合わせから親身に役についての相談などを聞いてくださり、とても心強く、感謝しています。撮影では、自分なりに、夏月たちが生きる世界を必死に生きたいと思います。

◆岸善幸監督 原作の衝撃と感動がずっと消えません。朝井さんの“視点”が生み出した登場人物たち、その感情をどう表現するべきか、模索が続いています。稲垣吾郎さん、新垣結衣さんをはじめとするキャストの皆さんとの対話を重ねて、少しずつ輪郭が浮かび上がってきたところです。人と人のつながりを描こうと思います。大切なのに、難しい、つながり。世界から「普通ではない」と片づけられてしまう人たちの、歪みのないつながりを描こうと思います。

◆朝井リョウ氏 言葉にするとは線を引くということです。明確に名付けがたい感情や現象に無理やり輪郭を与えてしまうのが、言葉です。映画には、表情、声色、沈黙など、言葉以外のものが沢山映ります。それらが、私が書きながら取りこぼしていったものたちを1つでも多く拾い上げてくれることを願っています。そして、この物語の核が、いい映画を創るという意思以外の部分でゆがめられることのないよう、緊張感とともに祈っています。