第76回カンヌ映画祭(フランス)で脚本賞を受賞した「怪物」の坂元裕二氏(56)と、是枝裕和監督(61)が10日、早大で人気授業「マスターズ・オブ・シネマ」の講義にゲストとして登場した。坂元氏は講義の中で「加害者を、どう描くかが、この12年間の長い長い重荷であり、是枝さんとやりたかった、というのがある」と、11年のフジテレビ系ドラマ「それでも、生きてゆく」以降、加害者の描き方で悩んだことが結実したのが「怪物」で実現した是枝監督とのタッグだと明かした。

坂元氏は、10年の日本テレビ系ドラマ「Mother」で、尾野真千子演じる母が芦田愛菜演じる娘を虐待する物語を描いたことについて、義父から「あの母は、ひどい」と言われたと振り返った。そして「この人にも事情があると6、7話の時(脚本を書く段階で)思った。裁判劇をやるはずが取りやめ、母が娘を虐待するに至るか、の物語にした」と振り返った。

その上で「それでも、生きてゆく」で、瑛太演じる主人公と風間俊介演じる主人公の妹を殺害した男が再会し、話す物語を描いたことに触れ「加害者を描く時、この人、どうやって描けば良いか、繰り返し考えた」と振り返った。そして「『Mother』のように、過去からたどる話も考えたが(自分には)小さな子供を殺す男は、分からない…というところで話は終わった。母の愛情を受けられなかった、という話を書いたが、頭を悩ませた」と続けた。

「それでも、生きてゆく」の放送当時、坂元氏は「始まりの頃、1年くらい、やっていて」と、自身の公式ツイッターを運営していたが、その中で、是枝裕監督からツイッターで「いつも見ていて、加害者を描くのは難しいね」とツイートされたという。坂元氏は「胸が痛かった。『ご覧いただき、ありがとうございます』とリプを送ったのが接触した初めての頃」と振り返った。

「怪物」は、坂元氏が川村元気プロデューサーと企画開発し、同プロデューサーが18年12月18日に是枝監督にメールで「プロットの長いのが出来たから呼んで欲しい」と誘ったことからスタートしたという。2人は17年5月に東京・早稲田大学演劇博物館が開催した「テレビの見る夢ー大テレビドラマ博覧会」の関連イベント「坂元裕二×是枝裕和トークショー ドラマの神様は細部に宿る」で対談したことがある。坂元氏は「加害者をどう描くかが、この12年間の長い長い重荷であり、是枝さんとやりたかった、というのがある」と語った。そして「世の中に被害者の物語はあるけれど、被害者の物語はなくなっていくし、減ってきている。お客さんに加害者の気持ちに…下世話な言い方をすれば、加害者の気持ちになれるかを10数年、考えていた」とも語った。

また、脚本家として、登場人物に善悪の色を付けることの苦悩も吐露。「日本は、正義の人が悪い人を捕まえると、私が悪いです、と言うようにドラマを作って来た。でも実際は、そうじゃない。お前は悪いだろう、というシーンを数多く書いてきた。それは、違うだろう…というのが、ここにきている」と語った。

また「書く時は、その人の主観にならないといけない。本当は全ての主観になりながら、セリフを書き連ねていけると本来、出来ればいいけれど、そうはならない。自分が主観になれない…どうやったら子供を殺した人間になれるか」とも語った。「あいつが悪い、こいつは良い、というのは、作り手がさじ加減で作るんだけど、さじ加減で悪く見えるようにするのは、罪の意識を感じている。事情があるのに、悪く見られたり…。(17年のTBS系)『カルテット』も、そうだけど、見えていないものを出したくなる」と語った。