末期がんの映画プロデューサー叶井俊太郎氏(56)が対談集「エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論」(CYZO)を出版した。昨年6月に膵臓(すいぞう)がんで余命6カ月を宣告されながら、抗がん剤治療、手術を拒否して仕事を続けてきた。映画「アメリ」の大ヒット、漫画家倉田真由美(52)の夫としても知られ、公開中の映画「恐解釈 桃太郎」の宣伝に奔走する叶井氏に“余命から1年後”の現在、過去、未来について聞いてみた。【小谷野俊哉】
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過去の仕事をふりかえって、一番インパクトがあったのは2000年(平12)に買い付けたインド映画「アシュラ」だという。
「うーんそうね、今思い返すとヒットしたか、大ゴケしたかだよね。大ヒットはフランス映画で興収16億円の『アメリ』。大ゴケは数え切れないんだけど、目も当てられないっていうのは、1本だけ。インド映画の『アシュラ』って映画が初日に客がゼロだったんで、はい。4回上映で、4回ともゼロ。宣伝はしましたけど、1人も入ってなかったから。『アメリ』の前くらいだった」
04年のファントム・フィルム設立をへて、05年にトルネード・フィルム設立。その間に河崎実監督(65)の「いかレスラー」「ヅラ刑事」「日本以外全部沈没」のなど企画・制作を手がけた。ヒット作も出したが、トルネード・フィルムは10年に3億円の負債を抱えて破産する。
「そうですね。破産しましたね。3億円くらい未払いがあって。なんでかなと思ったけど、映画って大変だなって。お金を払わなきゃいけない。だからもう本当に債権者の人たち、代理人とかね。印刷会社が多いんだけど、毎週というか、映画の初日がある時に映画館に来てもらって、実際に売り上げがこんな感じだって見てもらおうと思ってね。自信がある映画の時に来てもらったけど、10人いかないってね。するとみんなが『叶井さん、10人しかいないよ、お客さん』って言って『どうするの』って。だからもう無理って分かるでしょ、って開き直るしかないですもんね。そういうことをずっとやってましたね」
30年にわたり、映画の買い付け、制作、そして宣伝をやってきた。
「大体は公開する前に調整しますよ。映画が“壊れ”ても、配信とDVDで回収できるように、今はね。配信とDVDで回収できるような、最低ラインの制作費と宣伝費をかけて作る。僕の名前とかは、関係ないんですよ。やっぱり映画って、初日に分かっちゃうよね。どのくらい売り上げになるのかって。それがすごいビジネスだと思います。初日に客が入らなかったら、次の日は初日を上回ることないんで、絶対ない。初日ゼロって衝撃でしたね。絶対ないです。だからさっきの『アシュラ』なんて初日も翌日もゼロだから。3日目だか4日目だかに、やっと2、3人来た。本当に危ないですよね。だから本当に大ヒットかゼロかっていうところを経験してるんで」
余命を宣告されても、まるで人ごとのように語る叶井俊太郎。
「寝たまま死にたいね。寝たまま起きない、そのまま朝気づいたら死んでた。理想的じゃないですか。痛くなくて。僕はもうすでに『恐解釈 桃太郎』にも『叶井俊太郎に捧ぐ』ってエンドロールに入れちゃってるしね。死んでなきゃいけないんですよ、本当はね。ただ、まだ生きてる。12月8日は、ちょっと悔しかったですね。奇麗に死んでればつながったですけど、そういうわけにはいかないね。なんだったら、来年の6月くらいに『三茶のポルターガイスト・パート2』の宣伝やってるかもしれないし(笑い)。そのまま面白いね。その時はまた取材してください。『まだ生きてた!』みたいな(笑い)」。
スタンバイOK。笑顔で人生のエンディングを迎えられる。
◆対談集「エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論」(CYZO) 膵臓がんで余命半年を宣告された叶井氏が友人、知人である鈴木敏夫、奥山和由、ロッキン・ジェリービーン、河崎実、岩井志麻子、中瀬ゆかり、中村うさぎら15人の文化人と対談。あとがきは夫人の倉田真由美氏。
◆叶井俊太郎(かない・しゅんたろう)1967年(昭42)9月18日、東京都生まれ。ラジオ局ADなどをへて、91年(平3)に映画配給会社入社。92年香港映画「八仙飯店之人肉饅頭」買い付け。ジャンルはエログロ・変態から恋愛まで幅広い。01年映画「アメリ」が興収16億円の大ヒット。03年ファントム・フィルム設立も05年退社。同年トルネード・フィルムを設立して社長。同社は10年に3億円の負債を抱えて破産申請。プロデューサーとして「いかレスラー」「ヅラ刑事」「日本以外全部沈没」など河崎実監督作品を手がける。09年9月に漫画家倉田真由美氏と4度目の結婚。中2の娘がいる。昨年6月に膵臓がんで余命半年の宣告を受ける。



