藤本真澄(ふじもと・さねずみ=79年に68歳没)氏は、映画全盛期を代表するプロデューサーだ。社長シリーズや若大将シリーズなどの娯楽作品から成瀬巳喜男監督の文芸作品まで幅広く手がけている。
その名を冠した「藤本賞」は、数ある映画賞の中でも「製作者」にフォーカスした特異な賞だ。
第1回(81年)の受賞者が、駆け出し記者時代に足しげく撮影現場に通った「セーラー服と機関銃」(相米慎二監督)の角川春樹氏だったこともあって、歴年の受賞結果が取材体験を振り返るちょうど良い目安になっている。
43回を数えた今年の表彰式が先日、都内で行われた。藤本賞が米アカデミー賞で日本初の視覚効果賞を取った「ゴジラ-1.0」の製作に関わった6人。
同特別賞が「PERFECT DAYS」でメガホンを取ったドイツの名匠ヴィム・ヴェンダーズ監督、主演の役所広司ら4人。
新人賞は原作者水木しげるさんの思いを根底にすえながら、オリジナルで誕生秘話を描き出した「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」のプロデューサー内藤圭祐氏。
グローバルとチャレンジ。文字通り、日本映画界の今を象徴する選出となった。
「ゴジラ-1.0」を主導した阿部秀司氏は、大ヒットの公開を見届けた直後に亡くなった。表彰式には長男の慎利氏が出席。「父にとっては4回目の藤本賞になります。この素晴らしい作品が遺作になり、喜んでいると思います。アカデミー賞受賞時はすでに天国におり、それだけが心残りです」と話した。
「PERFECT DAYS」はヴェンダース監督と役所も製作に名を連ねているが表彰式は欠席。製作者の筆頭、ユニクロで知られるファーストリテイリングの柳井康治氏が「自分は映画業界に詳しくありません。ここにいらっしゃる皆さんとは違うと思います。毎日ご苦労されているトイレの清掃員の方に何かできることはないか、短い映像作品を作ってアピールできたらいいんじゃないか、というところからスタートした作品です」と映画製作に関わることになったいきさつを明かした。
役所もコメントを寄せ「お話をいただいた時は『公衆トイレの清掃員役』ということだけが決まっていました。これは経験したことのない映画になりそうだ、とその場でお受けし、ヴィム監督と製作者の1人として名を連ねることになりました」と喜びを新たにした。
もう1人の受賞者、電通の高崎卓馬氏は「お金のある『自主映画』は最高だと思いました」と、自らの学生時代の映画作りを振り返りながら、笑いを誘った。ファーストリテイリングの潤沢な資金がこの名作の原動力になったことは間違いない。
「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」の内藤氏は「水木先生の生誕100周年記念作品として、鬼太郎という国民的なコンテンツを次世代に、そして世界に広げていければ」と、原作にはなかった誕生秘話を新たに作ったチャレンジングな姿勢が評価されて笑みを浮かべた。世界市場でも強みを見せる日本のアニメのたくましさを改めて感じさせた。
振り返れば、「メディアミックス」を打ち出し、出版界から乗り込んできた角川氏に対し、当時の映画界の多くが「イベント屋」と批判的だった。ところが、ヒットを連発するや第1回藤本賞に。新たな外部の力を取り込みながら、不振時代を乗り越えてきた映画界のしたたかな一面もこの賞が象徴している気がする。【相原斎】



