歌手辰巳ゆうと(28)の「一の谷」が、USENの「今週のリクエスト 演歌」(1月28日集計)で、1位となった。

特筆すべきは、同曲が辰巳のアルバム「だけ、だけ、だけ、だけ、演歌だけ!~辰巳ゆうと サードアルバム~」(25年12月17日発売)の収録曲であることだ。

シングル曲はポップスでも演歌でも、発売日(配信日)直後にチャートインするのが普通だ。

ところが「一の谷」はアルバム収録曲で、しかも発売から1カ月以上たっての1位獲得となった。

「この曲を聴きたい」という機運が、時間をかけて『熟成』されてランクアップしてきたようだ。

同曲は平家物語の名場面で、能や歌舞伎、浄瑠璃の定番演目となっている「一の谷の合戦」を、セリフ入りでドラマチックに描いたオリジナル演歌。

1184年(寿永3)、源義経軍に攻め込まれた一の谷(現在の兵庫・神戸市須磨区)で、敗走する平敦盛(16)が熊谷直実(50)に討たれる。

敦盛は日本初の武家政権を樹立した平清盛のおいで、笛の名手だった。

歴戦の勇者の直実は、息子と同じ年ごとの敦盛の首を取ることをちゅうちょするが、「後に供養する」と手にかける。直実はその約束通り、出家した。

「一の谷」では、このシーンを情感たっぷりのセリフで表現。敦盛が吹いているような笛の音が効果的にアレンジされ、直実の葛藤を思わせる「『無理を言うな』と 自分に無理を言う」の歌詞が心に響く。

辰巳は演歌はもちろん、ロックテイストの曲も声色を変えて歌う多才な歌手だ。新曲「ロンリー・ジェネレーション」(3月4日発売)も、孤独でも前に進もうというメッセージを熱く歌い上げる。

「一の谷」では演歌歌手辰巳ゆうとの力量を、遺憾なく発揮している。

東京・明治座での「松平健×コロッケ45周年特別公演」(1月10日~25日)では、俳優としての才能も見せつけた。24年に芸能生活50周年を迎えた松平健(72)と、今年45周年のコロッケ(65)の大御所2人に臆することなく演じた。

同公演は好評で、9月15日から30日まで明治座での再演が決まっている。

俳優としての成長も「一の谷」の感動的なセリフに生かされているのだろう。

辰巳は「従来の演歌界にはなかったものを、先駆者として発信していきたい」と語っている。

「一の谷」の1位は、まさにその発信と言えそうだ。【笹森文彦】