5日に急死した俳優緒形拳(おがた・けん、本名・緒形明伸=あきのぶ)さん(享年71)の葬儀・告別式が7日、東京都新宿区の大日本獅子吼(ししく)会本堂で営まれた。約8年前から慢性肝炎を患っていたが、仕事に支障を来したくないと入院治療を拒否。病状が肝硬変、がんに移行しても在宅療法を選択し、役者の道を走り抜けた。次男の俳優緒形直人(41)ら遺族が明かした死因は肝がん。5日夜に容体が急変し、力尽きた。

 生前の遺志により、葬儀は密葬形式で営まれた。喪主の妻典江さん(71)や俳優に育った長男幹太(41)と次男直人に加え、津川雅彦(68)倉本聡氏(73)ら親しい友人だけが参列。斎場の中は緒形さんが「不羨富

 不憂貧」と自分で筆書きしたびょうぶが飾られ、ひつぎには数冊の台本とたばこが納められた。遺影は評伝「緒形拳を追いかけて」の表紙に使った写真。出棺は午後0時31分だった。

 緒形さんは4日夕に腹部の痛みを訴え、栃木県壬生市内の病院に搬送された。肝臓から出血が確認され、緊急入院。5日朝に手術を受けて持ち直したが、同夜に急変。遺族と津川に囲まれ、午後11時53分に息を引き取った。肝臓が破裂していたが、意識を失う直前まで会話していたという。

 高校時代に新国劇を見て志して以来、命が燃え尽きるまで俳優であり続けた。密葬後に会見した幹太と直人によると、約8年前から慢性肝炎を患い、肝硬変をへて4、5年前に肝がんに移行。むしばまれる一方だったが「肝臓のことは関係者に絶対言うな」と家族に伝え「オレは絶対に大丈夫だ。強い気持ちで仕事に臨むことで病気に勝ちたい」と自分に言い聞かせるように話していたという。

 この決意を貫くため、8年にわたる闘病生活で1度も長期入院しなかった。食事制限など摂生する在宅治療を選び、体調が悪くても点滴を受ける程度の通院や検査で済ませた。直人は「事細やかな治療法は僕らにも分からない中で懸命に戦っていた」と明かした。

 遺作となったフジテレビ系ドラマ「風のガーデン」は3月から撮影がスタートした。体調は思わしくなかったが、緒形さんは北海道・富良野ロケにも参加。幹太は「気が気でなかった。でも、素晴らしい仕事を父に与えてくださった」。撮影現場に出ると元気になる父を止められなかった。

 直人は9月に入って、緒形さんと美術館を訪れる約束をした。しかし「風のガーデン」が撮了する同月の「30日までは気合を入れないといけない」と先送りされた。その5日後の悲報に「3日間、泣き倒した。あまりにもデカい存在で、格好いい、温かい男でした」とおえつをこらえた。

 戒名は天照院普遍日拳居士(てんしょういんふへんにちけんこじ)。しのぶ会は後日、都内で行われる。