第26回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原裕次郎記念館協賛)が9日、決定した。

 「少年H」が2冠に輝いた。太平洋戦争下を生き抜いた家族の姿を描いた作家妹尾河童氏(83)の自伝的小説を映画化した作品が石原裕次郎賞を獲得した。降旗康男監督(79)は2年連続4度目の石原裕次郎賞となった。主演の水谷豊(61)と伊藤蘭(58)の夫婦共演も話題となった作品で、一家を支える母親を演じた伊藤が助演女優賞に選ばれた。

 想定外の受賞だった。「びっくりしました。想像もしていなかった。出演者、スタッフがすごく力を合わせた思いのこもった作品でいただけてうれしいです」。

 水谷と30年ぶり、しかも夫婦役の共演が話題となったが、少年Hの父親盛夫役に決まった水谷が、母親敏子役に伊藤を推薦したのがきっかけだった。「面白いから」と原作を渡され、読み終わったころ、水谷から言われた。「撮影中に還暦になる。そのお祝いに敏子役をやってくれないか」。この言葉が共演を決意する後押しとなった。「実在したお母さんですから、いろいろな方をがっかりさせたくなかった。撮影前は緊張もあったけれど進むうちに、全てが楽しくなった。家族4人の場面が多かったのですが、母親として自然に生きられた。現場では、リラックスして安心してできた。撮影を終えて帰宅すると、2人で『今日はいい感じだったね』って、褒め合っていました」。

 最近の出演舞台はエキセントリックな役が多かったが、今回は厳しくとも温かく家族を包み込む日本のお母さんを演じきった。「友人が映画館で見た時、終わってスタンディングオベーションが起こったと聞いて、その場にいたかったと思った。後世に残る作品に参加できて幸せ」。

 「少年H」は石原裕次郎賞にも決まった。2年前に亡くなったキャンディーズ時代からの親友田中好子さんの主演映画「黒い雨」も89年に作品賞を受賞している。「何かあると、心の中でスーちゃんと話をするんですが『私ももらったよ』と言おうと思っています」。天国の田中さんも喜ぶ受賞になった。【林尚之】

 ◆伊藤蘭(いとう・らん)1955年(昭30)1月13日、東京都生まれ。69年に東京音楽学院入学。74年にキャンディーズとして歌手デビュー、78年の解散後に一時引退。80年に女優として復帰。映画は同年「ヒポクラテスたち」「男はつらいよ

 寅次郎かもめ歌」などに出演。今年は「くじけないで」に出演。82年日本テレビ系ドラマ「あんちゃん」で共演した水谷豊と89年に結婚。長女趣里も11年に女優デビュー。

 ◆少年H

 昭和初期の神戸。洋服の仕立てで生計を立てる父(水谷豊)と愛情あふれる母(伊藤蘭)のもと平凡ながら幸せに暮らすH(吉岡竜輝)ら家族が太平洋戦争で運命をほんろうされる。仕事上、外国人との付き合いもある父はスパイ容疑をかけられ、妹(花田優里音)は疎開に出される。やがて空襲で焼け野原になった神戸で家族は力強く再出発を誓う。

 ◆助演女優賞・選考経過

 伊藤蘭が田中裕子との競り合いを制した。「映画を見ながら夫婦の姿がオーバーラップした」(福島瑞穂氏)と「少年H」で水谷豊を支える献身的で自然な姿が高く評価された。田中には「『はじまりのみち』での凜(りん)とした雰囲気は彼女しか出せない」(秋山登氏)と存在感の大きさと演技力の高さに驚嘆の声も上がっていた。