8月は6日、9日、15日-。なにかと戦争を思い起こさせる8月が去って行った。そんななか、10日の朝日新聞。保阪正康さんの連載「継昭開来」の言葉が、いまもキリを刺し込まれたように心に残っている。
<81年前、日本は戦時国際法を無視した非人道的な侵略を続け、極東国際軍事裁判(東京裁判)では戦勝国から徹底的に糾弾された。ただ、その裁きを受け入れた瞬間、日本はある権利を手に入れた。それは、自分たちが裁かれたのと同じ理念でもって、今度は「裁く」側に回る権利だ。裁かれたことに納得し、だからこそ他国の侵略や非人道的な行いに異議申し立てをする道義的な権利と責任だ。日本が平和国家というのなら、それを実践するべきだ>
保阪さんとは何度かお目にかかっただけだが、私が尊敬するノンフィクション作家、評論家だ。
何度読み返しても心に響き、この夏、私たち日本国民がぜひ、この思いを共有したいと強く感じている。
だが、その3日後、驚愕(きょうがく)する事態が起きる。米トランプ政権はICC(国際刑事裁判所)の赤根智子所長らを制裁対象とすると発表したのだ。ICCは2002年、日本やEU諸国が設立した史上初の国際刑事裁判所で、125カ国が加盟。資金は日本が最大の拠出国でジェノサイド(集団殺害)や戦争犯罪を裁く。
まさに<他国の侵略や非人道的な行いに異議申し立てをする道義的な権利と責任>を手にした平和国家日本が、裁く側に立って世界に向けて存在を示す場のはずだ。
だが、一部メディアが「敵意をむき出しにした」と書くこの制裁に、日本の高市早苗首相は「大変残念だ」とコメント。あまりの弱腰に批判が高まると「大変深刻に受け止めている」。
この暴挙、暴虐、陵虐に対して、なぜ全身を怒りで震えさせ、「国際社会を敵にまわすのか。いますぐ撤回しろ」と迫らないのか。
秋雨の下、背筋を冷たい風が吹き抜けていく。
◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)ジャーナリスト。東海テレビ「ニュースONE」静岡朝日テレビ「とびっきり!しずおか」などに出演中。


