列車の、指定席に着いて「さて駅弁でも」と前座席背部のテーブルを引き出そうとしたら、表面に「チケットホルダー」のシールが貼ってある。「取り忘れ、紛失等には十分ご注意ください。紛失の際の責任は負いかねます」との注意書きがある。

 「チケットホルダー?」

 なるほど、テーブルを止める円形フックの上部に四角いポケットがあり、ここに乗車券を収容できるようにしてある。

これが「チケットホルダー」、便利?な代物
これが「チケットホルダー」、便利?な代物

 北海道取材旅行の、特急列車内での風景である。北海道だけの設備であろうか。

 左右を見渡してみると、よそ者の観光客たちは無視(というより理解不能であった)であったが、北海道民と思われる御仁は席に着くなり懐から乗車券を取り出し、当たり前のようにホルダーに入れ、いねむりを始めた。

 やがて検札の女性車掌がやって来たが、客を起こすこともなく座席ホルダーをのぞき込み、取り出し、チェックして立ち去っていった。どうやらご当地では、当たり前のことであるらしい。

 JR北海道関係者に尋ねると「あれ!?、珍しいですか。そうですね、そうかもしれない。でも検札でいちいち乗車券を見せる手間が省けていいでしょう」。設置されたのは最近のようで、名古屋でも同様なものがあるそうだ。

 JR北海道のホームページにもやはり「車内改札を気にせずお休みいただけるよう、チケットホルダーを設置し、テーブルもより大きいものを設けています」とある。

 「かえって乗車券を忘れそうだ」と当方。もちろん乗車券は自分のポケット内、紙幣の間に挟み込んだ。昔から、この手のものは肌身離さぬことにしている。

 とあれ、旅の楽しみはこのような“地域”に触れることであろう。「へぇー」と驚いて、何か得をした気分である。

 そう言えば北海道へ来た楽しみのひとつに「豆パン」購入があった。あるテレビ番組で「道民熱愛の-」とやっていた。知人が北海道にいるから幾度となく当地を訪問、地酒、地ビール、ジンギスカン、ウニ、イクラ、カニとご相伴にあづかってはいるが、「豆パン」は初耳だった。

 「うまいパンがあるそうじゃないか。何で紹介してくれないんだ」と知人に電話したら「エッ、あんなもの。ただ甘いだけの、子供のおやつだ」と取りあってくれない。

 取材の合間を利用して、街のパン屋さんへ飛び込んだらありました。大粒の黒豆を含んで、適度な甘味はなるほど美味であった。

 夏休み、旅に出る方も多かろう。旅先の、「その土地ならでは」に遭遇できたらめっけものである。

【文化社会部編集委員・石井秀一】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「新聞に載らない内緒話」 (2017年7月)