街頭演説で衆院選東京8区への出馬表明をするれいわ新選組の山本太郎代表=21年10月8日撮影
街頭演説で衆院選東京8区への出馬表明をするれいわ新選組の山本太郎代表=21年10月8日撮影

「まず国政復帰」への、はやる思いなのだろうか。れいわ新選組の山本太郎代表の次期衆院選出馬に向けた動きが、思わぬ流れを見せ始めてきた。

山本氏は8日、定番のJR新宿駅南口で街頭記者会見し、19日公示の衆院選で、自民党の石原伸晃元幹事長のおひざ元、東京8区(7区に属しない杉並区)に出馬すると表明した。初めて国政に挑戦した2012年衆院選で出馬した選挙区であることを理由にあげた。当時は約7万1000票を超える票を取ったが、石原氏にほぼダブルスコアで敗北。「リベンジ。もう1度挑戦する。首を取らせてください」と訴えた。

19年、参院選を前にれいわを結党。旋風を巻き起こし、比例代表で2議席を獲得したが、自身は目算が外れて落選し、参院議員のバッジを失った。昨年の都知事選に出馬し落選。今年の東京都議選にも候補を擁立したが、議席はゼロだった。街頭演説で多くの聴衆を集めて支持を拡大していく手法がコロナ禍でかなわず、永田町では存在感の薄まりも指摘されていた。

国会議員の立場で発信していた経験との違いを、山本氏も実感していたはずだ。衆院選では、比例区での重複立候補という保険をかけるとも明かし「国会に帰らないとダメだもん。(自分が)国会をぴりっとさせないとダメでしょ」と、国政復帰への本音を隠さなかった。

もともと「魅力ある旗の下での野党共闘」を掲げていた山本氏は今年9月、野党共闘を呼びかけてきた市民連合と野党4党の政策合意に参加した。当然、政策合意した他の野党との競合は避けるはずだが、東京8区では立民の女性候補、吉田晴美氏が15年末の公認内定以来、約6年近く活動。共産党も候補を立てているが、地元で話を聞くと「数日前に『吉田氏で一本化』が見えてきたところ」だったといい、山本氏の参戦表明は寝耳に水だった。

吉田氏は、山本氏が東京8区参戦を表明した8日の朝も、駅頭に立って活動。しかし、山本氏の街頭会見と同時間帯で予定されていた夕方の活動は、急きょ中止となった。体調を崩したとする声もある。吉田氏がいない駅前には支援者が集まり「#吉田はるみだと思ってた」の青色の紙を手に、山本氏の出馬に抗議していた。

東京8区で活動してきた吉田晴美氏の支持者は「#吉田はるみだと思ってた」のカードを手に、山本太郎氏の出馬に抗議した=21年10月8日
東京8区で活動してきた吉田晴美氏の支持者は「#吉田はるみだと思ってた」のカードを手に、山本太郎氏の出馬に抗議した=21年10月8日

支援者の1人は「怒り心頭だ。地元に根付いた候補がいるところに、どういうことだ」と声を荒らげ、立民の枝野幸男代表ら執行部のガバナンス(統治能力)も批判。れいわを含む野党4党と政策合意した市民連合の関係者は「市民をなめてはいけない。私たちの手でボトムアップの力をみせていこう」と訴え、山本氏の参戦に徹底抗戦する構えをみせ、異様な雰囲気が漂った。

山本氏は「調整しないと、こんなこと(出馬表明)はできない。野党合意がある前から(吉田氏が所属する)立民側と話を進めている」と、調整ずみの上での参戦表明だと強調したが、どのレベルで調整が行われ、党と党の全体で根回しが完了していたのかどうか、まだ疑問が残る。それでも山本氏は「一本化して自民党候補を引きずりおろせるなら一本化、そうでなければ自由競争が基本。8区は一本化すれば(石原氏に)勝つ可能性がある」とした上で「8区で出られなくなった候補の支援者の思いは受け止めないといけないが、それ自体をけしからんという話にすれば野党共闘にはならない」と、自身への一本化の正当性をにじませた。「調整できるところ、できないところを調整し続けている」など、「調整」という言葉を何度も繰り返したのが印象的だった。

選挙では時に、候補者を差し替えることはある。一方で、選挙は「足し算」で、はかれないこともある。17年衆院選で、立民と共産を合わせた票は石原氏に約1100票と肉薄。今回野党統一候補擁立の必要性が説かれる背景でもあるが、今回もそのままその数字となるかどうかは、分からない。小選挙区では、地元の人の支持や理解を得なければ当選はできず、混乱すれば、まとまるものもまとまらなくなる。

「突拍子もないようで、現実的」。そう評されてきた山本氏だが、今回の東京8区参戦をめぐる動きは、現段階では混乱要因のままだ。新政権発足から投開票まで1カ月ない、異例の短期決戦となる衆院選。国政復帰を目指す山本氏にとって、東京8区は初めて出馬する選挙区ではないことも大事な要素なのだろう。それでも、出した答えは、野党間のつながりをかき乱す波乱要素になる可能性をはらんでいる。【中山知子】