立憲民主党の代表選が告示されたが、まだ、いまひとつ盛り上がらない。告示された19日はメジャーリーグ大谷翔平のア・リーグMVP決定や紅白歌合戦出場歌手などのニュースが重なり、話題的に隠れてしまったような印象も受けた。立憲民主党が流れをくむ旧民主党の代表選は、今よりも関心を引いていたような記憶がある。

党を立ち上げた枝野幸男氏という「党内1強」の創業者が、衆院選敗北の責任をとって追われるように退場。旧民主党時代から役職に携わった顔ぶれたちによる役職の「たらい回し」への批判は根強く、そういったメンバーの出馬がはばかられた空気がある。野党第1党のトップ選びだが、現段階では世の関心を集めるほどのパーツがそろっていないという感じもある。

4人乱立の大混戦は、党の刷新や世代交代が1つのテーマになっている。4候補にはそれぞれ20人以上の推薦人がつき、国会議員の動向はある程度固まっている。それだけに、誰が代表に選ばれるのか、党員やサポーターの動向がカギを握るといわれるが、もうひとつあるのではないかと思う。投票日当日、議員の投票直前に予定される最後の演説だ。

立憲民主党に連なる旧民主党と自民党総裁選の違いは、この投票日当日の「最後の訴え」があるかないかだ。自民党はいきなり投票に入るが、旧民主党は各候補者が短い演説を行い、今回も予定されている。過去にはその演説が、当初予想された結果を覆したといわれた戦いもあった。

2005年の代表選は、菅直人氏と当時はまだ若手の前原誠司氏(現国民民主党)が戦った。この時、前原氏は、中学時代に父親を亡くして奨学金を得ながら学生生活を送った苦労話を盛り込みながら「努力が報われる社会を」と訴え、しがらみにとらわれない党改革を主張。完全に菅氏のスピーチを圧倒した。

この時の代表選は、党創業メンバーの1人菅氏に若手前原氏が「刷新」をテーマに挑んだ。構図は違うものの、今回と雰囲気はやや似ている。投票前には、主要グループの支持を取り付けた菅氏がリードしていたが、結果は前原氏が逆転し、わずか2票差で代表に選ばれた。「投票前の演説が効いた」と、多くの議員に言わしめた。

前原氏は当時43歳。それまで幹事長代理しか経験しておらず、世代交代や刷新感への期待は集まったが、前原氏は結局その後、いわゆる「偽メール問題」で半年あまりで辞任。その後は再び、ベテラン組が代表に就く時代が続いた。

その前原氏が辞任した後の代表選では、投票直前の演説で、イタリア映画「山猫」の一節「変わらずに生き残るためには、変わらなければならない」と訴えた小沢一郎氏が圧勝した。その小沢氏と菅氏が壮絶な激戦を展開した与党時代2010年代表選では、2人がともに「僕には夢がある」「私には夢がある」と、かぶりフレーズで呼びかけたこともある。

旧民主党では代表選後、時に党内対立が激化。菅氏に敗れた小沢氏もその後しばらくして党を割った。立憲民主党としては初めてとなる、今回のトップ選び。旧民主党時代から続いてきた、党内の路線対立という流れを「刷新」できるかも、大きなテーマの1つになるはずだ。【中山知子】