参院選で自民党候補の応援演説を行う岸田文雄首相(22年6月25日撮影)
参院選で自民党候補の応援演説を行う岸田文雄首相(22年6月25日撮影)

参院選が公示され、6月25日、26日と最初の週末を迎えた。18日間と長い選挙戦の序盤戦最大の支持拡大かき入れ時で、各党党首や幹部、所属議員らが候補の応援に全国を駆け回る。人気が高く、各候補者から応援要請が引く手あまたの「選挙の顔」と呼ばれる人たちは、まさに序盤からフル回転となる。

ただ今回の参院選は、本来「選挙の顔」と呼ばれる人たちの動きが、いつもとちょっと違っている。

顕著なのが、自民党の「選挙の顔」となり得る党総裁、岸田文雄首相。25日に山梨、東京、埼玉で街頭演説を行った後、日付が変わるころ、先進7カ国首脳会議(G7サミット)が行われるドイツへ出席した。終了後、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に日本の首相として初めて出席するためスペインに移動する予定で、帰国は6月30日の予定という強行軍だ。

サミットは毎年G7の国のどこかで行われ、日本の首相も出席しているが、参院選の期間に重なったのは、2010年以来12年ぶり。当時は民主党政権の菅直人首相だった(菅氏は自身の発言の影響などもあり10議席減で、当時野党の自民党に議席数で敗れた)。今回、サミットがらみの外交日程とは言え、選挙中に5日間も首相が日本を離れるのは、「ほぼ例がない」(自民党関係者)という。

永田町では「外交は選挙の点数稼ぎにならない」といわれる。一方で、外交でのアピールは政権与党にしかできない。いずれも会議も、出口が見えないロシアによるウクライナ侵攻など、世界が向き合うテーマが議題。サミットからNATO首脳会議への移動は、第2次安倍内閣時代に外相を4年8カ月務め「外交の岸田」を自任する首相にとって、世界の首脳と同じテーブルで議論に加わり、日本の立場を示すための外せない機会で、点数稼ぎというより「外交の岸田」のアピールのチャンスととらえているようだ。

一方、自民党の「選挙の顔」といえば、少し前の国政選挙までは小泉進次郎前環境相で、期間中は毎日全国を飛び回っていた。今回は地元・神奈川での活動を重視している。3月に党の県連会長に就任し、改選4議席+任期が通常の半分となる欠員1議席の計5議席を争う「日本一複雑」な選挙で、自民2候補、公明1候補の3人を通常任期の上位4議席内に入れることを、自分に課している。公示前「今回の(応援活動の)メインは神奈川。時間は足りない。できる限り神奈川メインで、党本部とも話をしたい」と話していたが、一部地方遊説もこなしながら公示後最初の週末は、地元で応援に回った。県連会長としての初陣で結果を出そうと必死になっている。

自民党候補の応援の際、話し込む小泉進次郎神奈川県連会長(左)と菅義偉前首相(22年5月22日撮影)
自民党候補の応援の際、話し込む小泉進次郎神奈川県連会長(左)と菅義偉前首相(22年5月22日撮影)

一方、首相経験者が積極的に応援に絡んでいるのも今回の特徴。安倍晋三元首相は公示からの6日間中5日、菅義偉前首相は3日、自身に縁のある選挙区を回っている。立憲民主党の菅直人元首相も、日本維新の会の地盤・大阪の「特命担当」として現地に陣取り、近畿圏を回っている。

与党公明党の山口那津男代表や、ほかの野党は、やはり党首がおもな「選挙の顔」。立憲民主党は泉健太代表が、王道スタイルで全国遊説を続ける。選挙結果次第では責任論が出る可能性もあり、代表として初めて臨む本格的な国政選挙が、いきなり「背水の陣」となっている。共産党は志位和夫委員長、国民民主党は玉木雄一郎代表が事実上の「一枚看板」。日本維新の会は、人気の吉村洋文大阪府知事が公示前から、東京にも何度も駆けつけている。

党首自身が候補者なのが、れいわ新選組の山本太郎代表と、社民党の福島瑞穂党首だ。山本氏は、選挙の時には応援で全国を回る「ツアー」が定番だが、大激戦東京選挙区の候補者として今回ばかりは東京での選挙活動に力を入れる。一方、比例代表候補として全国を回るのが福島氏。社民党は今回、得票率の2%の票数を確保しなければ政党要件を失うことになり、老舗政党としての命運が課せられた崖っぷちの戦いでもある。NHK党の立花孝志党首も一枚看板として遊説を続ける。

「選挙の顔」にとって、勝てば手柄、負ければ責任も生じる。今後の選挙でお呼びがかかるかかからないか、政治家としての評価にもつながる。岸田首相が帰国する7月1日以降は、参院選も後半戦。10日の投開票まで、「顔」の真価が問われる戦いが続く。【中山知子】