チャールズ国王とカミラ王妃が結婚式を挙げた「ギルドホール」の入り口ドア(2005年4月、英ウィンザーで撮影)
チャールズ国王とカミラ王妃が結婚式を挙げた「ギルドホール」の入り口ドア(2005年4月、英ウィンザーで撮影)

9月19日午前11時(日本時間同日午後7時)、9月8日に96歳で亡くなったエリザベス英女王の国葬が、英国で営まれる。英国の君主=エリザベス女王しかしらない世代が、世界の多くを占める中、連日、追悼の様子が報じられている。

日刊スポーツが本格的に王室ウオッチを始めてから、30年以上になる。チャールズ皇太子(当時、現国王)とダイアナ妃の結婚生活に暗雲がたちこめたといわれる1980年後半以降、特に離婚や元妃の死に至った1990年代にかけては、記事の大小はあれ、連日紙面で英王室の話題を取り上げた。インターネットのない時代で、さまざまな方法を駆使しながら情報を集め、王室事情に詳しい専門家を見つけ、話を聞いたりした。担当になった私は先輩が作ったスクラップブックを引き継いで読み込み、自分なりに勉強しながら記事を書いてきた。

そんな流れもあって、英国のロイヤルウエディングを2度、取材する機会があった。そのうちの1つが2005年4月9日に行われたチャールズ皇太子とカミラ夫人の結婚式だ。場所は、近く、エリザベス女王の棺が納められるセントジョージ礼拝堂を備えた、ウィンザー城のあるロンドン郊外ウィンザーだった。

チャールズ国王の元妻、ダイアナ元妃の死から当時7年以上がたっていた。皇太子が元妃と結婚している間を含め、1970年ごろから続いていたカミラさんとの深い関係にけじめをつける機会だった。カミラ王妃は1972年、最初の結婚をして2人の子どもをもうけたが、1995年に離婚。チャールズ国王は1980年7月に元妃と「世紀の結婚式」を挙げたが、カミラ王妃との関係を続け、1996年に元妃と離婚した。

ともに再婚同士となる2人の挙式は当初、ウィンザー城のチャペルで行われる予定だったが、再婚に英国国教会の一部から反対もあり、いったん場所が変更された。会場に選ばれたのは、ウィンザー地区にある「ギルドホール」という建物。通常は、一般の人が利用する「公会堂」だった。王室メンバーの結婚式にしては意外なほど地味な建物で、現地に行ってびっくりしたのを覚えている。チャールズ国王の最初の結婚式(1981年7月)はロンドンにある著名なセント・ポール大聖堂、ウィリアム皇太子夫妻の結婚式(2011年4月)は、今回国葬が行われるウェストミニスター寺院。いずれも英国を代表する建築物だが、「ギルドホール」は違った。

チャールズ国王とカミラ王妃が結婚式を挙げた「ギルドホール」の外観(2005年4月、英ウィンザーで撮影)
チャールズ国王とカミラ王妃が結婚式を挙げた「ギルドホール」の外観(2005年4月、英ウィンザーで撮影)

「ギルドホール」は17世紀に建てられ、セント・ポール大聖堂と同じ建築家による歴史的建物とは聞いたが、なにせ古く、中の階段をのぼるときしんだ。「私たちの結婚生活には(カミラ王妃を含め)3人がかかわっていた」と振り返ったダイアナ元妃を追い込んだ経緯もあって、華々しく再婚をお披露目できない事情もあってか、地味に地味に…という印象だった。

挙式当日、カミラさんはオフホワイトのワンピースと帽子でおしゃれにきめていたが、式の中身は互いに誓いの言葉を述べ合うだけで、10分ちょっとで終了。ウィリアム王子(現皇太子)やヘンリー王子ら王室メンバー、カミラさんの親族は「ご一行様」状態で、マイクロバスに乗ってやってきた。式の後、国王と腕を組んで多くの観衆に手を振ったカミラ王妃と対照的に、チャールズ国王はそそくさと車に乗り込んだ。その後、城内で女王主催の披露宴こそあったが、ロイヤルウエディングという華やかな雰囲気は感じられず、どこか2人の「肩身の狭さ」を感じたものだった。

チャールズ国王とカミラ王妃の結婚式の際に売り出されたTシャツ(2005年4月、英ウィンザーで撮影)
チャールズ国王とカミラ王妃の結婚式の際に売り出されたTシャツ(2005年4月、英ウィンザーで撮影)

あの日から17年あまり。この間チャールズ国王の人気は低迷し、カミラ王妃も同様だった。ウィリアム皇太子が、父を飛び越えて国王になることへの待望論も強かった。カミラさんは皇太子と結婚後も、かつてダイアナ元妃が名乗った「プリンセス・オブ・ウェールズ(皇太子妃)」をあえて名乗らず、称号をめぐる議論もたびたび起きた。しかし今年2月にエリザベス女王が、チャールズ国王の即位時にはカミラさんが「王妃(クイーン・コンソート)」を名乗ることを受け入れるよう国民に呼びかけた。女王の生前の根回しと時間の流れが、混乱の芽のひとつをつみとった。

現地で、チャールズ国王がなぜ長年、カミラ王妃と関係を続けたのか取材すると「いっしょにいて安らげる存在だから」という声が多かった。チャールズ国王は、記帳にサインをした際のトラブルによる「いらつき動画」を英BBCに報じられたように、もともと気難しい性格で知られる。国王からペンを受け取り、代わりに記帳してフォローするカミラ王妃の姿も映ったが、長年連れ添った2人の、あ・うんの呼吸を世界中が垣間見る形になった。

敷地内の礼拝堂にエリザベス女王の棺が安置される英ウィンザー城(2018年11月撮影)
敷地内の礼拝堂にエリザベス女王の棺が安置される英ウィンザー城(2018年11月撮影)

出会ってほぼ半世紀。長い不倫関係、泥沼の愛憎劇を経て、あの小さな公会堂から夫婦として歩み始めたチャールズ国王とカミラ王妃が、「エリザベス後」の英国の新しい顔になる日がついにやってきた。「ザ・クラウン」など、ドラマ化されることも多い英王室だが、本家は「ドラマ以上のドラマ」の発信地だ。たぶん、これからも、一筋縄ではいかないストーリーが展開されそうな気がする。【中山知子】