高市早苗首相が「年度内成立」を目指した26年度予算案は、11日以降の自然成立を前に、結局現在も参議院での審議が続く。2月の衆院選で315議席を獲得し、圧倒的な数の力を手に入れた高市首相だが、「なぎ」の状態で政権運営が続いているとは言いがたい状況だ。想定外の米国とイスラエルによるイラン攻撃の収束はまだ見通せず、原油の調達をめぐる不透明感もあり、石油関連商品の供給不足やさらなる物価高への懸念が出ている。
高市首相は、「重要物資安定確保」の担当に赤沢亮正経産相を任命するなど対応に当たっているが、今回の事態をめぐっては初動の遅さを指摘する声もあると、耳にした。
事態がなかなか好転しない場合、今は高止まっている高市首相の支持率にも影響が出るのではないかという懸念の声もくすぶる中で、3月に行われた2つの選挙結果が自民党に少なからず、衝撃を与えた。
1つは、イラン攻撃発生直後に高市首相自身が応援に入った8日の石川県知事選。再選を目指した馳浩氏が、前回は勝利した山野之義氏に敗れた。もう1つは、29日の東京都清瀬市長選。自民、公明両党が推薦し再選を目指した現職が、共産、社民両党が推薦した無所属新人の原田博美氏(50)に敗れた。高市政権になる前には、東京の首長選挙で自民系の候補が相次いで敗れ続けた期間もあったが、2月の衆院選で、自民党は東京の30の小選挙区すべてで勝利。清瀬市を含む東京20区は木原誠二元官房副長官が圧勝しており、今回は「清瀬ショック」(永田町関係者)ともいえる結果となった。
そんな中、政界関係者が関心を注ぐ首長選挙が5日、告示された。東京・練馬区の区長選。現在3期目の現職の前川燿男(あきお)区長(80)の不出馬表明を受け、「あなたしかいない」と後継指名を受けた都民ファーストの会の東京都議で、練馬が選挙区の尾島紘平氏(37=出馬で自動失職)と、練馬で生まれ育ち、初めて立候補した前回の区長選で前川氏に約2000票差まで迫った幼稚園理事長の吉田健一氏(59)の事実上の一騎打ちの構図だ。
無所属での立候補となる尾島を、自民は、都民ファや東京維新の会、国民民主党とともに推薦。一方、吉田氏は「完全無所属」を表明し、共産党や社民党などが自主的に支援している。
自民党が今月1日に開いた尾島氏の総決起大会には、700人近い支援者が集まった。「政治の師」でもある小池百合子都知事も駆けつけ、早大1年の時に自身の事務所に入った尾島氏との思い出を振り返り、「『育ての母』としては、ここからが大変だという思いを共有している」と引き締めた。区議を1期、都議を3期途中まで務めた尾島氏は「これまでの区政を継承しつつ発展させていきたい。重責もかなりありますが、何としても勝たせていただきたい」と訴えた。
この総決起大会でも関係者が口にしたのが、石川、清瀬の結果。東京9区(練馬区の一部)が選挙区の菅原一秀衆院議員は「小池さんの千本ノックを受け、若いから心配だということはない」としながらも、「(情勢は)抜き差しならない状況。相手は死に狂いでやっている」として、石川と清瀬の例を挙げ「選挙は何があるか分からない」と、気を引き締めた。前川氏も「圧勝と思ったら僅差だった。(今回は)絶対に勝たせて欲しい」と訴えた。
一方の吉田氏は、告示前から駅前などでの街頭活動をこまめに行い、リベンジに向けて支持を訴える。「区長はどの区民にも公正公平でなければいけない。区民の声を聴いて予算付けをするのが区長の役割」と述べ、「区民の声を聴くためには、いる必要がない」として区長室の廃止も主張。告示前日4日の街頭演説では、「区民1人1人の声を聴くような区長になりたい」と訴えた。
「高市人気」で自民党が歴史的圧勝を収めた衆院選とは異なり、地方自治体の選挙はそれぞれの地域の事情もあり、国政での与野党の力関係がそのままストレートに通用するとは限らないことは、石川、清瀬の結果からもうかがえる。来年春には、各党が重視する統一地方選も控える。ある自民党関係者は「衆院選の結果を『ピーク』にしてはいけない、流れを維持するためには、難しいけれど注目される自治体選挙でもコンスタントに勝ち続けるのが大事」と口にした。そんなことも、政界関係者が練馬区長選に注目する理由になっているのかもしれない。
就任当初は対立しながらも、現在は知事与党として小池都政を支える自民党にとって、尾島氏は小池氏の側近的存在でもあり、負けられない、「リベンジ」の戦いでもある。投開票は12日。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)


