簗和生農相(47)の地元2自治体に対する「大幅予算カット」発言報道に端を発した一連の問題が、高市政権全体を巻き込んだ「あり地獄」(野党関係者)になりかねない様相を呈している。
簗氏は臨時国会召集日の10月5日に、それまであいまいな言い方しかしていなかった発言の事実関係について認め、「不徳のいたすところ」だとして撤回し、初めて謝罪した。報じられた音声には、自身が予算のカットを国交省に直接働きかけたような言及があったが、その事実はないとし、国交省も簗氏の「圧力」を否定。それでも、衆院選で票が伸び悩んだ二つの自治体の予算大幅削減に言及するという態度、さらにはそれを身内の会合で自分がやったことのように説明していた「虚偽説明」という二重の意味で、資質が問われる事態となっている。
そんな簗氏に「とにかく働いて仕事で返せ」と伝えたと、続投方針を崩していない高市早苗首相の口調にも、微妙な変化が生じているように感じる。9日の参院代表質問では、自身の任命責任を認めつつ、「しかしながら、政治家の言動はまず、本人が適切に説明することが重要」として、簗氏にさらなる説明を求めた。でも、これ以上必要な説明といえば、「問題の核心に迫る内容しかない」(関係者)という皮肉。当初は「誤解を招いた」などとあいまいな言い方だった簗氏の会見を見て、「報じられている発言が事実なら不適切なので撤回し、謝罪すべき」と、自ら伝えたとも明かした。首相に言われなければ、簗氏は発言撤回や謝罪をしていなかった可能性を示唆した形にもなった。
自民党内でも「このままかばえば総理自身に傷が及ぶが、『知恵袋のやなちゃん』を更迭するのはしのびない。総理も葛藤が少なからずあるのではないか」(関係者)と推し量る声を聴いた。高市首相が師と仰ぐ安倍晋三元首相にも、第2次政権中に政務三役に失言が相次いだ時期があったが、特に東日本大震災からの復興に関して当時の復興相や五輪相が失言した際は、いずれも発言直後に更迭する判断をしている。
一方、今回の簗氏の発言問題と比較して語られているのが、2019年4月、当時の国交副大臣が、安倍氏や麻生太郎氏の地元に近い地域を結ぶ道路整備計画をめぐり、「私は忖度(そんたく)します」などと、地元への利益誘導をアピールするように述べた発言だ。当時の取材メモを読み返すと、この時も当該副大臣は、発言が明らかになると、事実ではなかったとして撤回し謝罪。国会で野党から猛追及を受けると、「多くの人が集まった会で(のあいさつで)、われを忘れて間違ってしまった」など、今回簗氏の釈明でも聞いたようなフレーズが、釈明の中にいくつか含まれていた。 この時はちょうど統一地方選のさなかで、選挙への影響が懸念された。任命権者だった安倍氏も当初は更迭を否定していたが、結局、発言の表面化から1週間もたたず副大臣は辞任。事実上の更迭だった。
当時の政権には、危機管理にたけていた官房長官の菅義偉氏がいた。安倍氏の対応をみても、国民、有権者の神経をさかなでする内容など、発言の中身次第では、撤回や謝罪だけではすまなくなるケースは多い。今回の問題を受けて、依然高止まりを続ける内閣支持率に大きく影響するような事態になれば、首相も断を下さざるを得ないのではないかとみる関係者もいるが、「もはや、かばっても一利なし」との声も聴いた。
そんな中、9日に行われた自民党の農業構造転換推進委員会に出席した際、予算カット発言に自発的に触れなかった簗氏を、メディアの前で一喝したのが、鈴木宗男参院議員(78)だった。大幅予算カット発言で渦中にあるにもかかわらず、この場でも「必要な予算は確実に勝ち取る」などと発言していた簗氏に、宗男氏は「親切で言う」とした上で、「まず冒頭に、お騒がせしていますとか、しっかり説明責任を果たしてやってまいりますというあいさつがあってしかるべきじゃないかな。決意表明の前に人としての矜持(きょうじ)が問われているんだよ」と、「ド正論」を突きつけ、公衆の面前で指摘を受けた簗氏は謝罪せざるを得ない流れとなった。
2002年に自民党を離党し、昨年23年ぶりに復党が認められ、参院選をへて久しぶりに自民党議員となった宗男氏。「首相にも物を言える『ご意見番』がほとんどいなくなってしまった自民党の現職で、正論をはける貴重なベテラン。昔は、ああいうことをぴしっと言ったり、筋を通すことを重視する議員がたくさんいた。鈴木さんの指摘に、留飲を下げた人も多かったはず」(与党関係者)。そんな宗男氏の叱責(しっせき)を、「絶妙なガス抜き」とやゆする声もあると耳にしたが、もはや、ガス抜きしたところで問題が収束に向かう段階は過ぎているのが現在地。宗男氏の「公開説教」はあらためて、一連の簗氏の対応のまずさをあぶり出す形にもなった。
連休が明けると、一方通行の代表質問ではなく、生中継も入っての一問一答形式の予算委員会が始まる。簗氏の問題に関する内容を質問項目の中に入れている野党議員もいる。高市首相や簗氏の対応が、国民の前でさらに「可視化」されることを踏まえ、問題は大きなヤマ場を迎える。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)


