3Dの仮想空間で人と語らい、一緒に遊べるメタバース。国内外のさまざまな企業が数多くのプラットフォームを作り、アピール合戦が繰り広げられている。それもそのはず、メタバースは今後多くのユーザーが集うSNSとして普及する可能性を秘めているからだ。


NTTドコモが出資するHIKKYのVRコンテンツ開発エンジン「Vket Cloud」(筆者撮影)
NTTドコモが出資するHIKKYのVRコンテンツ開発エンジン「Vket Cloud」(筆者撮影)

■若者に飽きられつつある旧来のSNS

スマートフォンの普及とともに浸透していったSNS。同窓生と再会して近況を報告しあったり、地元コミュニティーの連絡網として使ったり、同じ趣味を持つ者同士で楽しんだりと、コミュニケーションを主体とした情報サービスとして多くのユーザーが利用している。しかしそのSNS。いつまでサービスが続くのだろうか。

日本で普及したSNSにはmixi(2004年)、GREE(2004年)、Facebook(2004年)、Twitter(2006年)、Instagram(2010年)といったものがある。mixiやGREEは時を重ねるにつれて栄枯盛衰の流れをたどり、世界最大規模となったFacebookですら若年層のユーザー開拓に失敗。12月2日には北海道大学付属図書館が「近年、学生のFacebook利用者が減少していることから、ついにFacebookでは十分な広報が難しいという結論に至りました」とFacebookアカウントの運用終了を発表し、物議を醸した。Twitterも他サービスと似た機能を盛り込むものの理解が得られず、「今までよりも使いづらくなった。元に戻してほしい」と言われる始末。Instagramも、TikTok(2017年)などの新興SNSに若年層が移住してしまい、Instagram離れが進みつつある。

この高齢化問題からのユーザー数減少を解決するとみられているのがメタバースだ。本来は対戦ゲームだったフォートナイトが雑談スペースとして機能し、アメリカのストラテジスト、マシュー・ボールのツイートによればゲーム内キャラクターに着せられるバーチャルファッションの売り上げが年間30億〜50億ドルとなっている。

レゴブロックのミニフィグのようなアバターを操作して鬼ごっこやかくれんぼなどシンプルなルールで遊べる、スマホ・プレイステーション・PC用ゲームのロブロックスも注目だ。月間アクティブユーザーは日本の総人口を超える1億5000万人といわれており、世界中の若年層が遊びながらコミュニケーションを楽しみ、多くの可処分時間をささげている。また若年層に自社の存在感をアピールしたいGUCCIやナイキといったブランドとコラボして、独自のコンテンツ展開も行っている。


そしてFacebookは社名を「メタ」に変更し、Meta Horizonというメタバースサービスの開発に注力している。しかしMeta HorizonはQuest2というVRヘッドセットを必須とするメタバースだ。参加するにはハードルが高い。

実際の視界以上の情報が得られるVRヘッドセットなどのメガネ型のウェアラブル端末は、将来的に広く普及するかもしれない。しかし現時点において、私たちの主な情報源は手元にあるスマートフォンだ。スマートフォンだけで参加できるメタバースで、ゲームを主体としないものはあるのだろうか。

実は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクはそれぞれメタバースに投資している。通信キャリアが注目しているメタバースを知れば、今後のメタバーストレンドをいち早くつかむことができる。もしかしたらそのメタバースがFacebookやTwitterのように、多くのユーザーを集めるメタバースの代表例となるかもしれない。


■ドコモが推す「Vket Cloud」とは?

日本におけるメタバースのけん引役の一翼を担ってきたのが、VRコンテンツ開発ベンチャー企業のHIKKYだ。彼らはコミックマーケットのようなユーザーベースの巨大イベントをバーチャル空間内で企画。2020年12月に開催されたバーチャルマーケット5ではのべ100万人のアクセスを記録し、世界最大のバーチャル展示会を運営するまでに成長した。

そのHIKKYと資本業務提携を結んだのがNTTドコモだ。10月29日に65億円を出資して、バーチャル空間内におけるHIKKYの高い技術力をNTTドコモの関連事業と連携することで、ポストスマホ時代となってもよりよいサービスを提供すると発表している。

Vket Cloudを利用している「バーチャルマーケット2021」(筆者撮影)
Vket Cloudを利用している「バーチャルマーケット2021」(筆者撮影)

もともとVRChatというアメリカ発のメタバースを用いてきたHIKKYだが、8月17日にVRコンテンツ開発エンジン「Vket Cloud(ブイケットクラウド)」をリリースした。専用アプリをインストールすることなく、スマートフォンやPCのブラウザーから利用できるのが最大の特徴だ。Google ChromeやFirefox、Safariといったブラウザーが動くデバイスのすべてが対象機種であり、ユーザーを選ばない。テキストチャット、ボイスチャット機能も備えており、コミュニケーションも簡単だ。「今日、スマホでここに集まらない?」と呼びかける際も、URLを伝えるだけでいい。とりあえずメタバースの雰囲気を体験してもらうにも最適なシステムといえる。

現時点においてVket Cloudは、HIKKYが主催するバーチャルマーケットでのみ利用されている様子。バーチャルマーケット2021は12月19日まで開催されているので、興味がある人は手持ちのスマートフォンの画面から訪れてほしい。


日本発のバーチャルSNSであるcluster(クラスター)は2017年に正式公開されてから、1000人が同時に視聴できる有料ライブ機能を持ち、VTuberブームを支えるプラットフォームとして浸透していった。2018年、2020年にKDDIをはじめとした企業が出資(KDDIの出資額は未公開)し、現在はバーチャル上で東京の街を体験できるバーチャル渋谷、バーチャル原宿、バーチャル丸の内といったデジタルツインを再現できるプラットフォームとしても認知されていった。

専用アプリを使うことで、スマートフォンからも利用できる。すでに多くのバーチャルな3次元空間が作られており、会話に向いたカフェを模したワールドもあれば、ミニゲームで遊べるワールドも用意されている。

アクティブユーザー数は公開されていないが、日本人のユーザーが多い。また公式ワールドでつねに多くのユーザーが集っている「Cluster Lobby」ではユーザーが作ったワールドを紹介しており、クリエーターを大事にしている様子がうかがえる。

渋谷区公認のバーチャル渋谷もclusterで作られている(筆者撮影)
渋谷区公認のバーチャル渋谷もclusterで作られている(筆者撮影)

KDDIは東急、みずほリサーチ&テクノロジーズ、渋谷未来デザインと一緒に業界団体「バーチャルシティコンソーシアム」を発足。都市連動型メタバースとして、バーチャル空間をリアルな空間と連動させる際にステークホルダーや法規制・権利などの整理を行い、リアル空間で商売を営む企業や団体がバーチャル空間で営業しやすいように働きかけていくという。ユーザーコミュニティーと企業との橋渡しが進む好例となることが期待できる。


■ソフトバンクはファッションメタバースに出資

近年のゲームは自由にアバターのデザインを作り込める機能が備わっているものが多い。11月30日、ソフトバンクグループのVision Fund 2はゲーム世界のアバター要素を取り入れた韓国発のファッションメタバースプラットフォームZepeto(ゼペット)に170億円規模を出資した。

ZepetoはTikTokのアバター版といったサービスだ。自分の顔写真を元に自動生成される(もしくは自由に作り込める)アバターに好きな衣類を着せて記念写真やダンス動画を撮り、コンテンツとしてシェアできる。ARカメラを用いてリアル空間とアバターを合わせたコンテンツも作れる。またclusterのように、クリエーターが作った「マップ」に入ってほかのユーザーのアバターとテキストチャットやボイスチャットで会話できる。

ディズニーやGUCCIなどのブランドがバーチャルファッションを提供。メークやネイルなども含めれば100万種類以上のアイテムを用いて、好きなコーディネートが手軽に楽しめる。

ユーザーのアバターが集って写真や動画が撮れるZepeto(筆者撮影)
ユーザーのアバターが集って写真や動画が撮れるZepeto(筆者撮影)

フォートナイトをはじめとしたゲーム的な要素を持ち、clusterのようなユーザーコミュニティーも尊重している雰囲気があるZepeto。デジタルアイテムの販売など、メタバースビジネスを学ぶのにぴったりなプラットフォームだ。

世の中にはほかにもさまざまなメタバースが存在する。それぞれ独自の特徴や魅力を持っているが、この3つの例はスマートフォン時代のメタバースとしてこれからも注目されるものと思われる。もしあなたの会社にメタバース絡みの企画の売り込みがあったとき、営業マンに普段からどのメタバースを利用しているかを聞いてみよう。そのときにVket Cloud、cluster、Zepetoの名前が上がらなかったとしたら、その企画は未来を先取りしすぎているかブームにのっただけのものかもしれないと判断できる。

【武者 良太 : フリーライター】