12月16日、大手ユーチューバー事務所のUUUMが発表した内容に業界がざわついた。同社は2022年春をメドに、専属契約している約300組のクリエーター(ユーチューバー)のうち、約半数の契約形態を専属契約から「ネットワーク契約」に切り替えるというのだ。

300組いる専属ユーチューバーを半減させると発表したUUUM。成長に向けて大胆な「方針転換」を行う(写真:UUUM)
300組いる専属ユーチューバーを半減させると発表したUUUM。成長に向けて大胆な「方針転換」を行う(写真:UUUM)

ネットワーク契約とは、コンテンツ制作・管理に役立つUUUM提供のプラットフォーム「CREAS」(月額500円)などを利用できる契約形態。マネジャーのような担当者はつかず、「所属」というより、「サービス利用者」といった色合いが濃い。

同社は専属クリエーターの対象を「ビジネスを共創できるポテンシャルの大きいクリエーター」と再定義。今後は専属のクリエーター数を追うのではなく、厳選したクリエーターのビジネス面の支援を充実させ、収益の拡大を目指す体制に移行する。


■アドセンス収入の伸びには「頭打ち感」

UUUMは専属契約しているクリエーターの動画広告収入の一部を手数料として受け取っているが、ネットワーク契約に関してはその手数料がかからない。専属でなくなれば受けられるサポートは減るが、稼ぎに対するクリエーター側の取り分が多くなるという面はある。

契約変更となるクリエーターには現在、順次説明を行っている。「想定していなかった変更に戸惑う人も多い印象だが、話し合いの中で大半の人が納得してくれている」(UUUMの渡辺崇CFO)。専属契約でなくなることによってUUUMから脱退するクリエーターが出ることも、ある程度は想定しているという。

UUUMはなぜ今回、大胆な方針転換に打ち出したのか。その背景には同社の売上高の58%を占める、ユーチューブ上での動画再生に紐づく「アドセンス広告」収入の拡大に頭打ち感が出ているなどの課題が透ける。

2021年5月期(以下、2020年度)、同社の所属チャンネル数は四半期ごとに増加した一方で、動画再生回数はほぼ横ばい。1チャンネルあたりでは再生回数が減少しているということだ。これに伴い、アドセンス広告収入も伸び悩む状態が続いている。

ある競合ユーチューバー事務所の幹部は「UUUMの再生回数の半分以上は、上位20人の専属ユーチューバーによるもの」と推測する。

数年前までは毎日のように動画を更新していた上位層ユーチューバーの中には、ユーチューブ外への活動の広がりとともに更新頻度を徐々に落とす人も増えている。そうしたマイナスを、新たに加入したユーチューバーたちでは補えていないもようだ。

そんなUUUMが新たな戦略として掲げたのが、「グッズ販売の拡大」「広告周辺領域の拡大」「社外クリエーターとの連携」の3つだ。

まずグッズ販売では、2020年度に5億円だったブランド・ライセンス商品の売り上げを2021年度は3倍以上の18億円にまで引き上げる計画だ。


■所属ユーチューバーの会社に資本参加も

グッズビジネスについて、前出と別の大手ユーチューバー事務所幹部は「業界で最大の成功例は人気ユーチューバーのヒカルだ」と話す。チャンネル登録者数460万人を誇るヒカルは、衣料品系ECサイトのロコンドとともにアパレルブランド「リザード」を立ち上げている。

同ブランドはヒカルを知らない層の取り込みにも成功しており、1年で10億円以上を販売。「アドセンスは5億円程度。グッズのほうが売り上げ規模が大きい」と、業界内で話題になった。

UUUMもこのような「ファン以外も購入してくれるようなブランドをクリエーターと一緒に作る」(渡辺CFO)。2021年3月には、自ら企画・製造した商品をネット販売するD2Cの支援企業・AnyMind Groupと業務提携、新ブランドの育成に本腰を入れている。同分野の人員増強も図り、2022年にかけて続々とオリジナルグッズを投入する計画だ。

足元では、専属ユーチューバーでチャンネル登録者数280万人を誇る宅トレユーチューバー・Marina Takewakiが立ち上げた会社にUUUM自ら資本参加。サウナスーツやトレーニングマット、プロテインなどの商品販売、そのほかの事業の拡大などもともに模索していく。

既存の枠組みだけでもう一段の成長が難しくなってきた広告関連では、周辺領域の開拓を進めている。

UUUMのようなユーチューバー事務所への企業からの依頼は従来、企業とユーチューバーがコラボするタイアップ動画の作成・投稿が主だった。だが今後は、「芸能人のキャスティングや広告運用、イベント展開など、(インフルエンサーを起点にした)広告代理店のような提案も行っていく」(渡辺CFO)。周辺領域も一括で受注することで、単価向上につなげる狙いもあるようだ。

また、社外クリエーターとの取り組みの拡大も目指す。すでにUUUM所属ではないインスタグラマーと協業したブランド立ち上げなども行っており、累計販売金額は3000万円を突破している。渡辺CFOは「今までは社内のことで手いっぱいだった。(人員配置など)組織を変え、今後は社内外問わずクリエーターとビジネスをしていく」と意気込む。


■組織体制も「アドセンス中心」から脱却

300人という従来の専属クリエーター数では薄く広く、トップ層以外にもリソースを割く必要があった。今回、専属クリエーター数を半減させることで、より影響力の大きい、かつ、動画以外の領域へ活動の幅を広げたいユーチューバーに社内リソースを集中できるようになる。

これまで専属ユーチューバーのマネジャー業務をしていた人員は、グッズ販売などのビジネス部門への配置換えを行う。クリエーター・社員ともにアドセンス中心から脱却を図るための組織体系へ転換する。

2021年8月に行われた株主総会で鎌田和樹社長は「従来は動画配信による収益を得ることがゴールだったが、今ではそこから次のビジネスとしてグッズ製作やイベントを行っていく時代だ」と語っている。

HIKAKIN、はじめしゃちょーなどUUUM専属の筆頭格といえるユーチューバーは、今や有名企業や公共機関のテレビCM、バラエティー番組などに引っ張りだこだ。ユーチューバーの社会的地位を高め、時代を切り開いてきたUUUM。次なるクリエーター経済圏を生み出すことができるのか、真価が問われるのはこれからだ。

【井上 昌也 : 東洋経済 記者】