元号「令和」を巡り、当時の安倍政権で首相秘書官を務めた今井尚哉氏が2019年4月1日の発表前、元号選定の実務を担う事務方とは別に、国書(日本古典)由来の元号案「佳桜(かおう)」など3案を安倍晋三首相に独自に提示していたことが21日、政府関係者への取材で分かった。発表前に政府の事務方内で漢籍(中国古典)由来の「万和(ばんな)」が「平成」に代わる元号として最も有力視されていたことも判明。発表から5年を経て終盤の詳細な選定過程が明らかになった。

関係者によると、杉田和博官房副長官(当時)をトップとする事務方が複数の専門家に依頼して得た「英弘(えいこう)」「広至(こうし)」「久化(きゅうか)」「万和」「万保(ばんぽう)」の5案のうち、石川忠久二松学舎大元学長(故人)が「史記」を典拠として考案した万和が有力とされた。ただ安倍氏は、国書ではないことや濁音が入ることで難色を示した。

こうした中、安倍氏から協力を求められた今井氏は3月中旬、万葉集に基づく佳桜や「桜花(おうか)」、出典のない造語の「知道(ちどう)」を安倍氏に示した。3案は国学院大の関係者が考案したもので、今井氏が面識のあった日本財団の笹川陽平会長を介して集めた。

今井氏は取材に対し、安倍氏に独自に提示したことについて「国書で良い案はまだある。もう少し考えましょうと促すためだった」と証言した。

安倍氏は提案を受け、改めて国書由来の元号案の考案が可能か検討するよう指示。考案を正式委嘱した中西進大阪女子大元学長から3月25日に令和が伝えられ、安倍氏ら政権幹部は27日、令和を本命とする方針を確認した。政府は4月1日、有識者による「元号に関する懇談会」などで最終候補として5案と共に令和を示した後、臨時閣議で新元号と決めた。

今井氏が提案した3案については、佳桜は引用部分が皇位継承を争った7世紀の壬申の乱を想起させるなどふさわしくないとされ、いずれも最終候補とはならなかった。(共同)